第52話 告白

紅茶を飲み干したタイミングで2人が席に戻ってきた。

パーティーというわけでもないため、お茶会はこのあたりでお開き、という形になり、それぞれお会計を済ませて解散することになった。

結局、聞きたいと思っていたことは聞けずに終わってしまった。が、収穫はあった、と言いたい。


「じゃあ、オレもここでさよならということで」

「あぁ、天道くん。また学校で会おう」


九十九ノアが二重人格だということに黒牙はおそらく気づいていないだろう。そしてあと1つ、九十九についてオレは知りたいことがある。それがわかるまではこのことは心に潜めておこう。



明日までの課題を思い出す。

散歩はお預け。一直線に寮に帰ろうと思っていたのだが……。

何やら後ろから気配がする。


「1C寮はここから反対だぞ?」

「あ、いや……」


木の陰からのそのそと現れたのは九十九ノアだった。


「……どうかしたのか?」

「実はその……」


――ん?

少し妙だ。

この通りはこれといって店もない、誰かとの待ち合わせに使える目印も特にない。なのに、人が立ち止まり過ぎている。それもちらちらとこちらを見られている。


「場所を変えてもいいか?」


目線で思い出した。オレは入学してから何度か謎の視線を感じたことがあった。そして今朝もだ。クラスメイトの視線は誰が誰なのかとか実のところ全て把握していた……が、違和感が残っていた。それとはきっとクラスメイトや知り合い以外の別の視線。同じタイミングで見られていたのは……?


「ここで……大丈夫だから、もしかして……みんなのこと気づいちゃった……?」

「みんな……? 周りのやつらのことか」

「みんなはねぇ……凄く優しいんだよ。私、みんなに対して何もしてないのに勝手に協力してくれるんだ」

突然わけの分からないことを言い出した九十九。

「は、はぁ。周りのやつらは1Cのクラスメイトだな?」

「そうだよ。でも入学式の後、ずっと君を追い回してたのは私だけ……」

背筋に寒気が走った。



「私……。私と……その付き合ってください……」



???

全く分からない。入学までオレたちに接点はない。そして、入学式からずっとストーカーのようなことをされていたと知った。さらに極め付に告白ときた。


「すまない九十九……どうゆうことかわからないんだが」

「ダメ……なの……?」

九十九は可愛さマックスの上目遣いを行使してきた。

やめろ九十九……その技はオレに効く。

「ダメというか……その前にどういった経緯で?」

「優しくされた……から。入学式始まる前……落としたハンカチ届けてくれたでしょ?」

入学式前のことなんてこれまで忘れていたし、言われて思い出してみても大したことじゃない。オレは落ちていたものを拾って、職員室に届けただけだ。

「百歩譲ってそれが好きになった理由ってのは分かるが……いや、分からないけど。それは間接的すぎるだろ? もっと他に理由があるんじゃないのか?」

「わざわざ拾ってくれた人……きっと優しい人だと思ったから、名前と顔を調べて追ってみたの……入学式初日はスーパーで久遠一花さん含め1Dのみんなを助けて、早くも1D女子の目立つ存在、千藤翼さんにカレーをごちそうしてもらってた。信頼できる人なんだとそこで思った。それから……」

「ああ、もういい大丈夫だ。要するにストーカーしてたら好きになったってことでいいか?」

「……うん、そうみんなも協力してくれてる……」


集団ストーカー宣言どうもありがとう……。もうこれ以上ドン引きできないところまで来たよ。

1Dにもそれなりに変な奴はいるがここまでのはかなり珍しいぞ。しかも、仮にも探偵志望のやつがストーカーはまずいだろ。このぶっ飛んだ感じ……飾とは違うベクトルでヤバい。十探帝は変人の集まりなのか?


「この先ストーカーはやめてくれ。試験前に視察とかはよくやってるやつもいるけど日常生活まで試験モードで居たくないんだ」

「……はい。その……じゃあ、」

「敵はあまり作りたくない。始めは仮ってことなら構わない」

「! あり、がとう」



「”怪しい素振りを見せたら潰す。いいな? 天道唯人”」



耳元で囁かれたその声はもう1つの人格。


オレがもう1つ知りたいと思っていることは人格の共有だ。

今、はっきりしたのはもう1人の人格は、九十九本体が目にしたもの、感情、行動がしっかりと把握できている。その逆は……分からないが。


「付き合う、ってのは何か作戦のうちか?」

「……何の話、?」


本体はもう1人の人格の存在すら分からない、もしくはとぼけてるだけか……。なんにせよ気は抜けないってことか。


「いや。今日は帰るよ」

「わかった」

「また、学校で会おう」



「うん”」



久遠にどこから説明したらいいだろうかと考えつつ、水色が一層遠く感じる冬空を見上げながら寮までゆっくりと歩いた。


――ん?


うちのクラスの生徒、か。1D寮のそばだったためその可能性が高い。

誰も練習していない外のバスケットコートでひたすらシュート練習をしていた。


かなり遠くからだったため顔ははっきりとわからないが声はかけずにオレはその場を後にした。

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