第51話 彼女の正体
「まずは紅茶でも頼もうか……?」
……
「そうですね。私はコーヒーにしよ」
「俺はミルクティーとクッキーも頼もうかな」
「九十九さんは?」
「……同じので」
「そ、そうか」
赤い瞳がこちらをずっと見つめている。
なんか、やりづらい……。何を考えているのか分からない。
……会話が止まった。
飾はこの状況を愉しんでいるのかニヤニヤと笑っている。
黒牙はいろいろと諦めたのか、外の景色を眺めるざまだ。
……そして問題の九十九ノアは、
下を向いて目を合わせてくれない。頬が少し赤くなっているような気がする。体調が優れないのだろうか。
「……今は球技大会の練習を頑張ってるのか?」
オレはありきたりすぎる今ホットな話題にひとまず逃げることにした。
「私はこの体なので全チームの監督として指示を出しています」
「そうか」
「俺たち1Dはとりあえず各チームで練習するだけだから、1Aは凄いですね」
「私は暇なだけですよ」
「そういえば、十探帝のことについては聞いてもいいのか?」
「もちろん、ね? ノアちゃん」
「”ああ”」
「まず、どんな流れで第九帝、第十帝の席になったんだ?」
それはオレも気になる内容だ。黒牙で良かった。さらに裏の狙いとして、十探帝の情報を聞き出せる。
「私もノアちゃんも……Q.E.Dによる探偵試験で席を奪ったんだよ。新たに追加されたQ.E.Dのルールはもう知ってるよね。挑戦者は誰もが勝手に十探帝に挑戦できるわけじゃない。条件としては、シルバークラス以上の探偵ランクを保有していることと十探帝メンバーの半数以上の同意で行うことができる。そして、探偵試験の内容はその年の探偵試験で行われた内容から挑戦者が選ぶことができる。ま、半数以上の同意は結構緩いと思うよ、メンバーはみんな挑戦者潰しに全力だからね」
「なるほど。そこらへんは結構理にかなっているという感じだね。ってなると……1Dで今現在可能性があるのは前の探偵試験でシルバークラスを獲得した遠藤拓哉、夏目梢、左海人、そして天道くんになるね」
オレの方を期待した目で見るな黒牙。1Dは様子見だと久遠に言われたはずだろう。
「いつでも待ってるよ、唯人」
「…………。ちなみに2人は探偵試験、何の種目を選んだんだ?」
「私は暗記、ノアちゃんはたしか耐久だっけ?」
「”私たちは同時期に挑戦した”」
暗記はオレもやった円周率、耐久は夏目がやっていた暗室長時間耐久か。
「相手も十探帝だったとなると……かなり手ごわかったのでは?」
黒牙が興味ありげにさらに深堀る。
「”飾は測定不能……無限に円周率を書き続けたため、第十帝は諦める形で勝利を収めた。私も似たような試験内容で第九帝になった”」
……さっきと違って真剣に話すんだな、九十九ノア。
「今回はそういう曖昧な判定というか勝負性が不安定だったから、また探偵試験の内容は変わるかもねぇ。不安定ではないけれど、まだまだ改革途中の組織というわけさ、」
「だいたい分かったよありがとう飾さん」
「ちなみに、第一帝から第十帝の席は同率じゃないから気をつけてね……挑戦する際には……」
「!? 第一帝は君たちよりさらに上ということなのか……」
「そう気を落すな黒牙。オレたちでも探偵試験の種類によっては可能性は0じゃない」
「そ、そうだね……ちょっと御手洗に行ってくるよ」
山登りにおいて、霧がかかった山の頂上を見上げて先が思いやられるように、黒牙は頂点の遠さに驚いたのだろう。
「そろそろ本題に入りましょうかね、ノアちゃん? 唯人」
「「あ、うん……」」
……。
「じゃあ私も御手洗に行かないとね~」
…………。………………。……………………。
あからさまに席を外した飾。オレと九十九は2人きりになった。
「その……九十九さんって休みの日とかは何かしてるのか?」
「……写真撮ってる、あと……昔から将棋はやってる」
「へぇ、カメラが好きなのか。…………」
おかしい、やはり日常会話が弾まない。というか、勝負のことや試験のことになると別人になるという感じだ。事前に飾が言っていた、会えば分かるというのはこういうことなのか……?
かまをかけるわけではないが、少し試してみるか。
「勝負における信念とかはあるか? 例えばだが、協力重視だとか、結果重視だとか、犠牲ありきの勝利だとか、」
「将棋と一緒だ、王を護るために駒を使役し、敵を倒すために駒を使役する……強者とは、使える駒を最大限に使って理想郷を作り出す」
「……。じゃあ、好きな人とかはいるのか?」
「……そ、それは……、」
「あぁ……、無理には大丈夫だ」
「……」
なるほど。質問内容によって、顔つきや声のトーンが明らかに変わっている。
九十九ノアに関する謎をキレイに脱ぎ払える説明が1つだけある。
専門知識を使わずに分かりやすく言うと、
九十九ノアは、二重人格の可能性が高い――。
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