第33話 探偵試験開始
一番最初に試験がスタートしたのは種目C:耐久。
地下1階では1Dクラスの参加者が各々の個室へと足を運ぶ。
「ギリギリまでついてこなくても良かったのに」
「一応チーム。これからどうせバラバラに種目が始まるからな、一緒に居られるところは一緒にいようぜってらしくもなく左がな」
「そうだ。離れていても、ってやつだ」
「ああ」
試験開始の合図とともに夏目は目の前の暗闇へと解けていくように分かれた。
「オレも組手の方へ行くとするよ。左、天道、俺たちもここで一旦さよならだ」
「そうだな、俺と天道は早期決着だ。すぐ勝って応援に行くよ」
「遠藤、自分を信じろよ」
「押忍!!」
拳を3つ合わせて夏目が入っていったドアの前に突き出し、オレは会場へと向かった。
今回のAからDまでの種目は探偵にとって必要な技ということなのだろう。そしてそれを個人競技ではなくあくまでもチーム戦としたのはオレたちを探偵の卵と甘く見ているということだと遠藤は言っていたがそれは違う。将棋でも何でも駒の動かし方を把握していなければ勝利はつかめない。そうだ、これは人をどれほど自分の思い通りに動かせるかという技も見ているのだろう。
「来たか、余裕だな。天道くん」
「神永か。良いチームメイトを持ったな」
「左か? データを与えたら誰もあいつに勝てねぇ努力家だ」
「神永も黒牙、神宮寺も随分と余裕そうだが……今度は協力してズルでもするのか?」
「別にあいつらと組んじゃいねーよ。ただ、種目A:暗記の開始時間は午前9時。種目D:推理の開始時間はその1時間後。わかるだろ?」
「黒牙と神宮寺の考えそうなことだ。あくまで協力して……勝つ、と」
「さあな?」
遠くで黒牙と神宮寺に目を向けると楽しそうに笑いあってる。
「あと1人はまだ来てないのか?」
「ん? あぁ宮地か……。影の薄いやつだ」
試験開始1分前に宮地が席に着き、そのままアウトプット用紙が配られ静かに試験が始まった。
しばらく周りの様子を観察していると、黒牙と神宮寺の両者は片耳に手を当てている。読み通り、遠隔指示を受けているようだ。一方神永はカンニングペーパーを用意していた。それも事前にアウトプット用紙をカンニングペーパーをさらに自分にしか分からない暗号化したものとすり替えていたらしい。独特な用紙の薄い模様かと思ったがこれは0~9の対応表のようなもの明らかに法則性があるな。
宮地とは正直喋ったことが無い女子生徒。どんなことを考えるのか分からないがオレも少し集中するか……。
――試験終了
「耳に何も付けて無かったな?」
終わるとすぐに神永が話しかけてきた。
「ああ。神永、お前の作戦は全て読んでいたよ」
「何だと?」
「探偵試験が発表された直後にクラス全員の耳に聞こえるように試験時間のズレを意識させるような言葉を放っていたな。あれは誘導だ。それを耳にした黒牙と神宮寺は特に神永を意識もせずに作戦を決めた。いや、作戦を決められたんだ。そしてそれをチームメイトを利用して妨害または指摘ってのがお前の作戦だろ?」
「ご名答! これで全員釣る予定だったがな……宮地と天道は、」
「カンニングペーパーの法則性で釣れた」
「……何?」
「あれは最初はお前が勝つためのものだと思ってたが違った。どんなに賢くなくとも3.14から20桁くらいは覚えられる。そこから法則性はバレる。宮地は知らないがもちろんオレはそれを信じなかった」
「そりゃ残念……」
『結果発表!』
黒澤先生の声がスピーカーから聞こえてきた。
『まあ、あれだ。もったいぶってもしょうがないからな。ぱっぱと発表するぞ。1位は天道唯人の500桁。2位は宮地柚の498桁。3位は神永空娯の100桁。他は失格だ。以上』
「なん……だって?」
「噓……」
黒牙と神宮寺が先ほどとは裏腹に肩をがっくりと落としていた。
「498に、500だと!? どんなカンニングをした? わからんかったぞ」
「それはわからないだろう。オレはカンニングなんてしてない」
「覚えたのか……? どうやって?」
「そーだな。左っぽく言うなら、努力。かな」
「ふざけるなよ天道、必ずいつか裏をかいてやる」
そのままの勢いで神永は試験教室を出て行ってしまった。黒牙も落ち込んでいる神宮寺を慰めながら後を追うように出ていった。宮地はまだ椅子に座って静かに黒板を見つめていた。
「お前も神永の作戦を読んで頑張って覚えたのか?」
「そう。でも貴方を見くびっていた」
宮地は目を瞑ってゆっくりと喋り出した。
初めて声を聴いた。透き通った可愛い声だった。
「たまたまだな、こういう単調なものって覚えやすいんだオレ的に」
「? 1Aの飾さんからは450くらいと聞いていたので驚きました。あれからもまだ成長してるのですね」
飾という名前にオレは少し動揺した。天道飾……宮地柚……ここに関係があったとはな。
「人間は成長する生き物だ。そう飾に伝えとけ」
「はい、きっと喜びますね。フフフ、ふふ」
「?」
オレは宮地とこれ以上話しても頭が混乱すると思い、遠藤の応援に向かうことにした――。
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