第29話 2日目

探偵祭1日目の夜。

赤星から連絡があった。


『今日はありがとうな天道』

『うまくいったらしいな』

『まあやりたいことやれたよ』

『すまなかったな神代をもう少し待ってやってくれ』

『ああ、ずっと待ってるさ』

いい奴だな。赤星に夏目に、これで不思議と黒牙チームに接触しやすくもなったな。


探偵祭2日目。

特に誰とも約束をしていなかったオレは1人学園内をぶらつくことにした。

校門が騒がしいと思い下駄箱から外に出てみると何やら数台の黒いビーストと呼ばれるアメリカ大統領などが使用する公式行事用自動車が止まっていた。

どんなお偉いさんだ?


「あれはこの学園に資金を提供している財団だ」

生徒会長の雨宮がボソッと囁いた。

「お偉いさんってわけですか」

「日本探偵業協会のさらに上。。この名探偵育成高等学校を創った団体だ。その代表は理事長ではなく、あの男だ」

白いスーツ姿で車から足を降ろした40代前半程の男、周りの者たちから天音様と呼ばれている。

レッドカーペットが敷かれ雨宮が理事長室まで案内するようだ。


「あなたが犯人ですか?」

またも後ろから声をかけられた。犯人当ては正解のためシールを渡した。

「1Bの天星か、今日はあのデカいのと一緒じゃないんだな」

「そうですね」

「天音様ってのを知ってるか? さっき学園に来たお偉いさんだが」

「…………」

「?」

「本当に知らないんですね。1Aの天道さんからも」

「何をだ?」

「探偵業界のトップ、天音様のエスペランサ。それに従う天音様と同じく、の字を掲げる御三家。いや、旧御三家というべきですかね、天道唯人くん」

御三家か、まためんどうな話題だな。一応誤魔化しとくか。

「初めて知った。だがオレの天道って苗字はたまたまだ」

「へー? 噓つくんだね。御三家、私の天星家、天羽家、そしてあなたの天道家。あなたのでなく、1Aの天道飾さんを今は指すのかしらね?」

「そういうことか」

「ふふふ」

エスペランサに御三家か、この学園で上を目指すにも全く関係のない話だろう。


しばらくして2年生の先輩たちや他のクラスの生徒たちが何人か訪れ、見事にオレが犯人だと当てられた。攻めるばかりに集中していたと思っていた久遠もオレの所に現状を聞きに来た。


「今の時点で何人来たの? 暗号を解読してあなたが犯人だと分かった者」

「10人は来たかな、流石に学校が学校だからな」

「そうね、もうすぐ探偵祭は終わり。まあまあ良い成績じゃない」

「やっとか、ただ歩いてまわるってだけかと思ってたが案外後半は疲れたな」

「それはエスペランサに遭遇したから?」

久遠の口からその言葉が出ると思わなかった。

「知ってるのか」

「エスペランサに御三家、簡単な表の情報しかしらない。ただ今思えばあなたの苗字の天道……って」

「たまたまだ、そしてオレの素性はどうでもいい」

「……そう」

突き放したつもりはないが過去は過去でしかない。それを伝えても良いことなどありはしないのだから。

名探偵とはいったい何なのだろうか、エスペランサが、御三家が提唱するものが名探偵の条件なのだろうか。

「なあ、名探偵の条件って何だと思う? 久遠の答えを聞きたい」

「急に何、今ある最大の情報、証拠を用いて推理を行って真実に辿り着く、事件を解決すること。依頼人や犯人の心に寄り添う存在とかかな」

「最初のは授業で習ったことで最後のは久遠の優しさだな」

「なによ、答えなんてないでしょ。ただ大事なのは誰かを助けたいって気持ちね」

そうだ、答えなんてない。真実のために誰かの心を犠牲になんてしてはいけないのだろう。


探偵祭終了のお知らせ放送が聞こえた。

オレはそれと同時に「level」と書かれたクラスTシャツを着替えて教室へと戻った。

生徒会によりクラスポイントが集計され、順位が発表されるのを静かに待っていた。


【順位発表


1位 チームA


2位 チームD


3位 チームB


4位 チームC】


「2位だ~~!!」

「よっしゃ! ありがとう先輩たち~!」


クラスがどっと盛り上がるのを見て、久遠は冷静に分析を始めた。

「うちのクラスの暗号も案外難しかったのね、ほら」

結果詳細が載っていた電子手帳には1学年で2位の位置にDクラスの文字があった。

「お前が反対に全部のクラスの暗号を解いたからだろ……これ」

「それには限度があるでしょう?」

「まあな」


オレたちが作った暗号、その手掛かりはキーボードの抜けたキーにある。

抜けたキー、W、T、Y、A、V、Mは左右対称のアルファベットだということ。そして英単語帳とクラスTシャツのヒント。オレが着ていたTシャツ「level」はvの真ん中で左右対称になっているというからくりだった。つまりはそういうことだ。


「おそらく神永や久遠は似た反対から読んでも同じ英単語になりそうでならないやつで攪乱しようとしたか引っかかった者を煽ろうとしたかだな」

「違うわよ! 遠くから見たらギリギリよく分からないと思ったからそれはそうなんだけど、私は煽ろうとは思ってない! 神永くんでしょそれは」

「それはどうも」


探偵祭はこれでお終い。1Dクラスはキーボードと英単語帳のみのため片付けもそれほど無く、すぐに解散することとなった。

ポイント差額も少なく、変なズルや騙しも起きなかった分いつも以上に平和に幕を閉じた。

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