5章:プラティカル・エール

第38話 2学期スタート

2学期。

まだ夏の暑さが消えない教室でいつものホームルームが始まった。


「2学期のイベントも豪華だぞ~! どん底に落ちないように頑張れよ」

宿題を回収しながら黒澤先生は分厚い冊子を配布した。

「プラティカル・エールのカタログだ。学期最初の難関イベント……詳しいことはカタログ中表紙に全部書いてあるから各自確認しておくように!」



「プラティカル・エール? 何のことかしら?」

オレと久遠は配られたカタログを早速開いた。

「そこで探偵が提示したミッションをクリアしなければ学校の門を跨げない、訪問先での安全の保障はない、かなり過酷だな。今までとは別のベクトルで」

「訪問先選びも慎重にならないとね、半分運もあるだろうけれど……」

席替えが無いこの学校もなかなか悪くない。リーダーの久遠が隣にいるのは正直ラッキーだ。

「実際に探偵事務所を訪問するのか。訪問先はこのカタログから選べるらしい」

「プロの仕事を近くで観れる良い機会ね。なるべく評判のいいエリートな事務所にいってみたいわ」

「だな。締め切りまでまだ時間があるからオレはゆっくり決めるよ」


全国各地には様々な探偵事務所が存在しており、その数は交番の数と同じくらいあると言われている。今回のプラティカル・エールはその中でも選りすぐりの超エリート事務所のみと厳選されていると先生は説明した。

なるべく事件がこないような事務所……田舎にできれば行きたいと訪問先を絞るが該当する事務所は1件しかなかった。凶悪犯罪事件が起こりやすい都会にエリート事務所は集中し、田舎にあるほうが稀、不自然というわけか……。


「黒牙チームのみんなはもう決めたのか? プラティカル・エール」

放課後まだ教室で集まっていた黒牙チームに問いかけた。

「東京都でしょ! なあ? 夏目」

「俺は地元の関西圏に決まってるだろ。京都にするつもりだ」

赤星に夏目が当たり前のように答える。

「じゃ、じゃあ黒牙は?」

「俺も東京かな。なるべく23区がいいと思ってる」

「お~~やる気だね~、山ちゃんは?」

「黒牙ちゃんと同じと・こ・ろ♡」

「あぁ……」

みんなしっかり行きたいところが決まっていたことに少し驚いた。もう将来のことを少しずつ考えているのか。


オレはチームでそのことについて話すと約束しているカフェに向かうとどうやら最後の到着だった。


「すまない、遅れた」

「じゃあ座って。始めましょう」

「一花はもう決めてるんでしょ?」

「ええ。東京23区にある未来探偵事務所ね」

黒牙と同じ考えか。


現在の東京23区は月の犯罪率は全国で最も高く、凶悪犯罪組織(レベルF)がいくつも混在してあるため、探偵最高機関、エスペランサや御三家が中心となって警戒段階(カテゴリー):一級が布かれている。


「エスペランサや御三家に条件を満たせばプラティカル・エールとして訪問できるらしい」

「エスペランサの条件を満たしている生徒はこの学年にはいないわ。御三家の訪問条件のシルバークラスの校章持ち、を満たしているのは天道くんたちね」

「ま、帰ってこれなそうだがな」

「天道なら大丈夫ですよ」

スイーツを頬張っていた修多羅はカタログを見ていなかった。

「もう決まってるのか?」

「千葉県ですかね~。最先端技術応用探偵事務所。知ってる? 探偵業の特色によって大きく分かれてるんだよ。最先端技術を取り扱ってたり研究したりしてるのは太平洋側が多くて、その拠点が千葉なんだよ!」

「そうなのか……知らなかった。他にも何かそういうのがあるのか?」

「ん~そうですね。コミュニケーションとか犯罪心理学とかそういったのは関西圏ですね~。ま、ほとんどが23区にありますから! 迷ったら23区! ですかね。死ぬかもしれないけど……」

もちろん探偵の死亡率も23区はダントツで高い。あまり関わりたくないというのが本音だな。

「神代は?」

「もちのろんで九州……! 北九州にある剣打拳探偵事務所かな。さっきの公太の続きみたいになっちゃうけど、北九州は格闘系の探偵が多いんだよ……。それも超一流の。私……ますます強くなっちゃうな~~?」

神代が久遠を煽るようにそう言った。

「別に。プラティカル・エールから全員がちゃんと帰ってきて、それぞれがちゃんと成長してればこっちもありがたいわ。ね? 天道くん」

「な、なんだよ……」

「しっかり考えて決めるのよ」

「ああ」


カタログを持ち帰り、1人自分の部屋でページをめくっていた。


にしても……いろいろな探偵が世の中にはいるもんだな。

サイキック探偵……エスパー探偵……サイコメトリー探偵……、これ本当にエリート区分なのか……?

オレは一番最初に検索をかけて1件出てきた所をもう一度開いた。




―――――



東京から外れた田舎はここだけだった。山に囲まれた盆地、美咲町という町に駄菓子屋兼探偵事務所を構えている探偵らしい。過去に凶悪犯罪組織を撃退した経歴あり……か。

写真はどう見ても駄菓子屋にしか見えないためにその経歴は噓のように思えた。


何かの間違いか、学校側がこのカタログに間違えて入れてしまったのかはわからないがオレはここに希望を出すことにした。



‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐



<>

「駄菓子屋探偵」(ジャンル:ミステリー)という単体のストーリーが↓にありますが、この「名探偵育成高等学校」ではそれを知らなくても全然大丈夫なストーリーになってます。どうでもいい紹介?お話でした。(ミステリー兎)

https://kakuyomu.jp/works/16816452219254631625

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