第19話 切札の意味


神宮寺たちの提案で、久遠が選んだのはババ抜きだった。その賭けゲームはババ、つまりジョーカーが最後まで久遠の手元に残った。オレたち久遠チームは敗北というわけだ。きっとポイントは追いつかれたか追い越されただろう。少なくとも1Dトップはもう久遠チームではないということだ。


「ごめんなさい、確率的には勝てれたゲームだったのに」

「いや、オレはどっちのゲームだろうとも負けたと思ってたぞ」

「は!? 何でよ!!」

「オレもだが久遠はカジノの初心者だからな。神宮寺たちはゲーム慣れしてたし。表にあったスロットとかは運かもしれないが対人戦となると必要なのは運だけじゃない。ゲームの流れを読む客観的思考や自分の心理を読ませないポーカーフェイス、そして……」

「そんなこともちろんわかってるわよ!」

二人だけになった個室で頬を赤く染めた久遠が強がってきた。

「……自分が顔に出やすい性格ってのに気づいてないのか? ジョーカーが自分のところに来た最後の方はずっと目線が手元のジョーカーにいってたぞ」

「う、うるさいわね!! 」


その日の夜。久遠はまた何故かオレの部屋をチームの集合場所とし、カジノで起きたもろもろのことを神代と修多羅に報告して謝罪した。


「まあ元々入らなかったポイントだし? 気にしなくてもいいんじゃない? まだ始まったばかりだしね~」

「そうですよ! 逆にクラスでの僕たちのチームの立ち位置が前よりも良くなって打倒他クラスへの道が開けたのだと考えるべきですよ!」

他のチームのみんなは明るく久遠を励ましていた。重たい表情だった久遠も今はチームメンバーの懐の深さに救われたような顔をしている。

「それはそれとして……修多羅くん……? 今ここであなたの電子手帳を見せてくれないかしら?」

……ん? 流れ変わったな。

チームポイントは当然のことながら全員が把握できるものであり、久遠は予想ではあるがチーム内のポイント合計の計算をして、実際と明らかに計算違いな数値だと気づいたのだろうか。クールでちょい女王様ないつもの久遠に戻っている。

「……はい。こちらになりますぅ」

大名に奉納金を差し出すかのように頭を下げて電子手帳を見せた修多羅をベットの上で急に偉そうに足を組んだ久遠はそれを奪うように取る。その光景を神代は遠くで静かに見守っている。

「約-5000……。怒らないから話して?」

怖い……。絶対怒るやつだ。小学校とかの担任の先生がよく使う技だ。

「中間試験で天道に頼まれたんだよ。盗聴器の修理を……はい」

「それでそんな大金飛ばないでしょ? 本当のことを言って」

「はいぃ……。僕……その工作とか好きでして、隠し電話的なものを延長で作ってしまってその部品で……」

「隠し電話!? 何何それ! カッコイイ!!」

何やら興味を持った神代が見せてほしいと勢い良く修多羅に迫る。

「子どもっぽいかもしれませんが超小型のトランシーバーを制服の上ボタンに偽装させた、遠隔偽装通信機です」

「スゲーな修多羅。これなら久遠も喜ぶだろう?」

「そうね、その特技にはお金を使う価値はあるわね」

早速自分のボタンを私服の上から取り付けて神代が「こちら神代響、どうぞ?」などとカッコつけた声で探偵ごっこをしている。

ボタンで機能を確認するとどうやらボタン四方の小さなスイッチで通信先を選択できるようだ。オレの場合だと右上はリーダーの久遠、右下は神代、左上は修多羅、そして左下はチーム一斉通信。ここまで小型の通信機は一流品だ。


話はカジノの失敗や修多羅のポイントから遠隔偽装通信機の話にすり替わり、気付けば夜も更けてチームは解散することとなった。

全員が部屋に戻った頃合いでボタンの左上を試しに押してみる。ツーツーとしばらく鳴った後で修多羅の声が聞こえた。


『早速機能チェックかな? 天道、これは学園内の端から端までくらいの距離なら余裕で使えるよ。ただ濡れたり強い衝撃を加えたりすると壊れちゃうかも』

『正直驚いたよ。今話してる音声も綺麗だし、ここまでの技術はなかなかない。工作は誰かに習ったのか?』

『両親は仕事人だったから……でも代わりにロボットとかいろいろプレゼントをたくさんくれたんだ』

『そうか、良い両親だな』

『でも幼かった僕はそれが気に入らなくてバラバラに分解して、怒られては修理して……を繰り返してたんだ』

『なるほどな、それで自然と器用になって工作が得意にってわけか』

『はいそんな感じです』

『とりあえず今日はもう遅いから寝るとしようか』

『ですね~、また明日学校で会いましょう』


今日は少しだけ修多羅公太のバックグラウンドが理解できた、そんな気がした。

そしてこのことは当然チーム内のみが知ることとした。これが不利になるのか有利になるのかはまだ読めない。だが、切札は隠すに越したことは無い。トランプのジョーカーはババ抜きのように弱い時もあれば、大富豪のように強いときもある。それがジョーカー、切札ってやつだ――。



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