第60話 決意
「私も流石にあの日は心配したけれど、次の日にグランちゃんの顔を見たらね……心配する必要はないって事が分かったわよ」
今日は当主に復帰した父上が、俺と母上に話したい事があると、一年ぶりくらいに家族三人で集まって話している。
最初は少し重くて気まずい雰囲気から始まり、数分の間は三人とも無言だった。
一番初めに重い口を開いた父上は、今回の騒動の謝罪から始まった。
それは決闘だけではなく、10年前に第二夫人としてフリアを嫁がせた事、その後の対応などについてだった。
それらは本来よりもかなり早い時期に侯爵家の当主になった事が原因だったと深く反省していた。
もしフリアを嫁がせたとしても、あの時点では侯爵家の当主にはならず、最低でも数年間は次期当主として、先代の補佐をして経験を積むべきだったと後悔していた。
この10年間は表面だけ立派に成長し、内面は学園卒業時点から殆ど変わってなかった。
これからは精神面などでも成長し、偽りの当主ではなく、真の当主に必ずなってみせると強く語っていた。
そして最後に、だから少しの間は待っていて欲しい。侯爵家の当主として、お前達の家族として誇れる人間になってみせると。
そんな決意表明も……母上の『ええ、私は待っているわよ。あなたのお母さんを卒業できる事をね。ふふふ』と恥ずかしい爆弾を投下されて台無しに?
でもそのお陰で父上一人の犠牲により最初の雰囲気は吹き飛び、前の様な明るい雰囲気へと戻り始めた。
今は俺の選定の儀以降、それぞれ何をしていたか? 何を思っていたのか? などの話しで盛り上がっているところだ。
「そういえば、グランちゃん……ずっと伸ばしてた髪切ったのね?」
「ええ、魔物狩りに集中し過ぎて、髪の事は気にしてませんでしたが……決闘後に執事長から提案されて切りましたよ」
「あら? そうだったのね……ならもっと前に私が切ってあげれば良かったわね。私はてっきりね……そういうお年頃だと思ってたわ」
「ち、違いますよ!」
「私の勘違いだったわね。ふふふ」
今日の母上はとても機嫌が良い。また三人で会話する事ができて嬉しいんだろうが……揶揄うのは父上だけにして欲しいものだ。
「グランはあの日から毎日の様に魔物を狩っていそうだが、どのくらい強くなった?」
「日帰りで行ける初心者ダンジョンは全て回って、レベル56て感じですかね。もう日帰りで行けるダンジョンがなくなって、ちょうど最近困ってたんですよね」
「なるほど、才能値の方は問題ないのか?」
「そういえば『オール・ワン』でしたね。その事を忘れるくらいには、固有スキルが強いので全く問題ないですよ」
「そ、そうか。非常に気になるが……固有スキルなどについては、また今度ゆっくりと聞かせてもらおう」
「行くダンジョンがないのなら〈土のダンジョン〉はどうだ?」
「いいんですか? 是非〈土のダンジョン〉で狩りして強くなりたいです」
「もちろんだ。ただ、付き添いでレーヴァン騎士団の騎士も一緒だがな」
「それは構いませんが……魔物狩りは一人で狩っていいですよね?」
「どちらでも大丈夫だ。一人で狩りたいと言えば、ピンチの時以外は手を出さん」
「それなら良かったです。明日から行っていいですか?」
「あ、明日か? まあいいだろう」
「楽しみです」
「グランちゃん〜初めての剣術の時みたいな顔して目が輝いてるわね」
ダンジョンの件については、俺の方から話そうと思っていたから助かった。
俺が考えてたのは、日帰りで行けない下級ダンジョンとかに行く事だったから〈土のダンジョン〉の方が嬉しい。
しかも明日から〈土のダンジョン〉で狩りできるとか最高に楽しみだぜ!
そんな事を思っていると。
「グランに大事な話がある」
「何でしょうか?」
「シャルロッテ皇女殿下の件だ」
「ッッ!? その件なら……婚約が破棄されて終わりましたよね?」
「そうだ。だかグラン次第では、まだ終わっていないんだよ?」
「ど、どういう事ですか?」
「グランとシャルロッテ皇女殿下の婚約破棄の理由だがな……あれはグランがカース持ちになっただけではないんだよ」
「もう一つの理由は《皇女の騎士大会》だ。第一皇女殿下に問題が起きてしまってな……今代の《皇女の騎士大会》は優勝者と第二皇女シャルロッテ殿下が婚約する事に決まってしまったんだよ」
「……」
「だから、もしグランが同世代最強を目指す覚悟があり《皇女の騎士大会》で優勝する事ができるのならば、またシャルロッテ皇女殿下と婚約する事も可能だ」
「同世代最強をグランは目指すか?」
「ええ、もちろん目指します!! 元々、強くなろうとは思っていました。今回の話しを聞いた事で、まずは《皇女の騎士大会》優勝を目標に頑張ろうと思います」
「それならグランは《皇女の騎士大会》優勝を目指し、私は一日でも早く真の当主になれるよう――お互いに頑張ろうではないか!」
「あら〜〜? 私だけ仲間外れかしら?」
「「ッッ!?」」
《皇女の騎士大会》優勝を目指す息子。
真の侯爵家当主を目指す夫。
そんな息子と夫の決意を幸せそうな笑顔で見守るシオンだった。
こうして、今代のレイブン家三人は新たな大きな一歩を踏み出した。
〜〜sideヒューゴ(狂戦神)〜〜
時はグラン転生直後まで遡る。
「それじゃあ、今から少年の魂を新たな世界に転生する。 新しい人生を頑張るのじゃ」
俺が今から転生させるヤツとの疲れる会話が、やっと終わったぜ。
そして、さっきから居るのは気づいてた。
俺の唯一の悪友が声を掛けてきた。
「おい! ヒューゴ。何が『新しい人生を頑張るのじゃ』だ? 『じゃ』とは何だ? いつものお前とは違い過ぎだ!! しかも、その姿は……最高神様ではないか」
転生させたヤツとの交渉が成立し、代償の一つとして『記憶封印』した後に……やった悪ふざけのせいでマジで疲れたぜ。
覗いた記憶の中にあった。
空想の神様が面白いキャラしてたから……あのクソじじぃの姿で演じてみたら、話し方違い過ぎて、途中からマジでキツかった。
「うるせーぞ!! クソ眼鏡やろうが……これから俺が創り上げたショーが始まるから忙しんだよ! こっちわ」
「この狂戦神がッ!! また問題を起こしたら次こそは最高神様に消されるぞ。その事を分かっているのか? お前は?」
「流石に俺だって分かってるよ。だから、今回はしっかり対策してるぜ!! てか……誰が『狂戦神』だぁ〜? 俺は戦神だっつーの」
「それを言うなら私も『クソ眼鏡やろう』ではなく、知神だ! お前が狂戦神と呼ばれるのは、自分のせいだろうが……それで最高神様から『今回は一部権限の剥奪だけで許すが、次は消滅させるからな』と言われただろう」
「あれはクソ教皇とか言うやろうが、俺の名を使って変な宗教を広めるからだ!! だから俺が直接、神罰を下したまでの事よ」
「それで、どうなった!?」
「俺以外……世界が消滅しちまったな」
「それが!! お前が戦神ではなく、狂戦神と呼ばれる理由だろうが」
「細けぇーことでうるせーんだよ! クソ眼鏡が……どうせ、お前は俺のショーが見たいんだろ? 素直に言えよアホがッ」
毎回、言われなくたって分かってるよ。
俺だって反省してんだよ。
それにあの後、俺から奪った力を使って、ちゃんとクソ教皇達以外はクソじじぃが何とかしただろ。
「私はお前の事が心配で来たんだよ。勿論、私の悪友のショーは見させてもらうが」
「最初からそう言えよ……アホがッ」
「それで、さっきお前が言っていた『今回はしっかり対策してるぜ!!』について、私にも詳しく説明しろ」
「教えて下さいだろうが! まあ、少しは心配してるみてぇーだから教えてやるよ。この俺が創った『
「お前の世界を覗くぞ! なるほど……確かにこれならば、またお前が怒り狂って世界を壊す事もなさそうだな」
「しかし固有スキルの中に二つほど、人類には過ぎた力があるが大丈夫なのか?」
「固有スキル【狂重の―】てのは、さっき俺が
そんで、さっきのヤツがアイツに会う事で無事に固有スキル【理――――者】が目覚めてよ〜〜人類最強対最強のショーよ」
同じ願いを持った二人が、同じく※の力で手に入れた、手に入れるだろう。
最強の固有スキル二つのぶつかり合いは、マジで燃えるぜ!!
この俺が応援してるのは勿論【狂重の―】の固有スキルを持ったさっきのヤツだが……最後に
俺とは違う意味で狂ってるお前なら、その狂った※で暴れ狂って勝つ姿を見せてくれ。
「その『とある試練』……お前にしては悪趣味じゃないか? なんで壊れた―を――させ、新たな―を壊す必要がある?」
「一度―を壊して、それでも強くなろうとするヤツじゃなきゃさ〜〜お前が言う『過ぎた力』の目覚めには、辿り着けないのさ」
「ショーまで辿り着ければ、
「その為の『
「しかし、今のお前の力では……あの二つの固有スキルを持った者達は止められない。
もちろん私もお前の世界は管轄外だから、何もすることは出来ない」
「知ってるわ! ボケェーー。この俺がゼウスのじじぃに頼んで代償を払ったんだよ」
「どんなだ?」
「そりゃ〜〜ショーが決着するか。さっきのヤツが死ぬまでの間は、
「だから私でも、
しかしそれでは、意味がないじゃないか?
「俺の悪友ならよ〜〜そんなこと聞かなくても分かるだろ 」
「「それもまた、一つの
狂重の試練〜願いを叶える為に帝国最強を目指す〜 鴉ノ龍 @7kaku2022
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