第10話 帝都へ
騎士団長との模擬戦から時が流れ――
帝都へと向かう日に。
あれからは週末に一度、騎士団長に見てもらえる事になった。教育係の騎士も丁寧に教えてくれるのでとても為になるが、やはり比べてしまうと明らかに違うと感じた。
なんと言うか……強者は普通の人とは見ている視点が違うようで何度も驚かされた。
なので、最近の一番の楽しみになっているのは、その週の成果を模擬戦を通して騎士団長に見てもらいアドバイスを貰うこと。
そんな感じで充実した日々を過ごしていたらあっという間に時が過ぎていった。
「グランちゃん初めての馬車の感想は?」
「凄いですね! 思ってたよりも大きかったのとあまり揺れないことに驚きました!!」
「ウチは侯爵家だから普通の馬車よりも豪華で性能も凄いからね。それよりも外の景色の感想は? 私は今でも覚えてるわ!!
初めて乗った馬車から見た景色を思い出しただけで……つい興奮しちゃったわ」
「今日は天気にも恵まれているので、とても綺麗な景色だと思います。前方と左右で違う景色が楽しめるのもまた良いですね」
「でしょ! 私の時も良い天気で最高の景色だったわよ。懐かしいわね〜」
馬車に乗ってから少しの時間が経ち、母上が感想を求めてきた。
レイブン家の馬車は侯爵家だけあって普通の馬車とは比べ物にならないほど凄い。
レーヴァン領を出る時に門の近くで沢山の馬車を見ることが出来たので、その違いがよくわかった。
豪華なのは勿論だが、大きさが違う。
縦長で馬車の中は10人入っても十分なスペースが確保されている。普通の馬車も頑張れば10人乗れるが……ギュウギュウで慣れない人ならすぐに酔うと思う。
馬車を引く馬も他と比べて大きく、筋肉質な馬が二頭で引いている。前方の左右に一頭ずつ居るので、前の窓からの景色も良い。
更に馬車の周りには、四人の騎士達が同じ馬に乗って警備している。
なぜ四人なのか? 理由は二つある。
一つ目が前後左右を確認する為に、必要な最低人数が四人だから。
二つ目の理由は馬車を引く馬の負担を減らす為に3グループに分けるから。休憩で止まる度に、馬車を引く馬と騎士が乗っている馬を入れ替えるらしい。
そんな感じの凄い馬車に乗りながら、これから約二週間掛けて帝都へと向かう。
「やっと終わったよ」
「お疲れ様ラクサス。だけど……馬車に乗ってまでやる必要あるのかしら? せっかくの良い機会だし、私は家族三人でゆっくりと景色を見ながら楽しい楽しい会話がしたいわ」
「悪いなシオン、帝都に着くまでに終わらせておきたい書類仕事がいくつかあってな……すまない」
「ほどほどにしてちょうだいね」
馬車に乗ってから門を通る時以外、ずっと書類仕事をしていた父上が珍しく母上に怒られている。
母上としては屋敷の中だと義母のフリアに気を使ってしまうので……今回みたいに三人だけの時間を大切にしたいと思う気持ちはよくわかる。
「それじゃあ、今からは楽しい楽しい会話の時間にしましょうね。まず何から話しましょうかね……あっ! グランちゃんにはまだ話したことがなかったわね。私とラクサスが出会った時の――」
「――やめてくれ!! 頼むからその話だけは勘弁してくれないか……」
「え〜〜私にとっては……とても大切で、とっても楽しい思い出だから話したいのよ」
「父上がそこまで動揺するのは、珍しいので少し興味ありますね」
「おい! グラン! 二人してやめてくれ」
「わかったわよ〜〜ラクサス。じゃあプロポーズしてくれた時の話しならいいでしょ?」
「……それも勘弁してくれ。なんで私の恥ずかしい話しばかりなんだ?」
「ラクサスにとってはそうでも、私にとっては楽しい話なのよ〜」
まさか帝都へ向かう途中で、こんなにもはっちゃけた母上を見ることなるとは……義母フリアが嫁いで来てから色々と溜め込んでた物が出てきたのか?
それとも以前は常にはっちゃけていたのか? どちらにせよ、楽しそうな母上を見れて良かったと思う。
帝都へと向かう馬車の中は三人だけなので父上もいつもと比べて楽しそうだ。
よくよく考えてみたらメイドも執事も騎士も居ない空間で、家族三人だけになる機会は今まで一度もなかった。
屋敷での二人とは違う本来の父上、母上と話せる貴重な機会を楽しもうと思う。
「グラン」
「なんでしょうか?」
「帝国についてはどこまで知っている?」
「そうですね……帝国が実力主義国家だという事と、初代皇帝陛下の冒険者パーティーがたった七人で四カ国を滅ぼし、吸収した事でグロース帝国を建国したことですかね」
「その滅ぼされた一カ国の王族の一人が――レイブン家初代当主様という事までは知らないだろう?」
「ッッ! ……そうなんですか?」
俺が転生して生まれ育った実力主義国家――グロース帝国の歴史について書庫で読んだ時には何度も驚かされた。
その中でも初代皇帝陛下が率いる冒険者パーティーがたった七人で四カ国を滅ぼしたと読んだ時はありえないだろ? と思ったのを今でも覚えている。
まさかその一カ国の王族が……レイブン家の初代当主様だったとは、読んでいた時は夢にも思わなかった。
「そうだな、せっかくの良い機会だから話してやろう。帝国について――」
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