第9話 レーヴァン騎士団長
「……」
既に騎士団長との模擬戦が始まってから数分が経過している。
最初は正面から基本的な上段、中段、下段からの攻撃を何パターンかしたが、全てその場から一歩も動かず、剣技だけで軽く受け流されてしまった。
次に脇構えで左右に回り込み攻撃をするなどのパターンも加えてはみたが、無表情のまま同じ様に一歩も動かず受け流された。
このまま続けても意味がないので、一度離れてから立ち止まり息を吐く。
「ふぅ〜〜」
「終わりですか?」
「流石にまだ終わりませんね。剣術に関しては稽古を始めてからの期間が短いので、これで限界ですが――それ以外ならまだ残っているので試させて貰います」
「それは楽しみですね」
「では――」
今度は重力不可を解除した状態から攻撃を始め、体が慣れて来たら最初と同じ正面からの基本的な攻撃をする。
だが今回の場合は上段から剣を振り下ろすタイミングで一気に――【身体強化】スキルを発動する。
「ッッ!」
模擬戦を始めてからほとんど無反応だった騎士団長が、声には出さなかったものの表情に僅かな反応があった。
その後は、攻撃パターンの順番を変えながら緩急を付けて攻め続けたが……騎士団長は一歩も動かず同じように受け流す。
さっきと似た状況になってしまった。なので騎士団長からもう一度離れて、息を整えてから騎士団長に声をかける。
「ふぅ〜〜。もう手札がほとんど無くなりましたので、次の一撃で最後にしますね」
「どうぞ、いつでも来て下さい」
「行きます!!」
騎士団長の正面へと全力で走り、剣を振り下ろす位置まで数歩の距離で――【加速】のスキルを発動する。
今出来るすべてをぶつけるやる!!
そんな気持ちでリスクがあるのを分かった上で振り下ろすタイミングに――剣と腕に可能な限りの重力魔法を掛けて重くし、最後の一撃を振り下ろした。
「ッッな!!」
最後の一撃も騎士団長を一歩も動かすことは出来なかったが、剣技で受け流すのではなく普通に受け止めていた。
模擬戦を始めてから初の声を出しながらの大きな反応を引き出せた。
その代わりに、たった一撃で剣を持つのもギリギリなほど腕が痺れて痛い。
「今回は模擬戦ありがとうございました!! 思いつく限りの出来ることを全てやり、出し切ることが出来ました」
「最後の一撃には少し驚きました。途中から動きが速くなって、緩急を付けた攻撃も関心しましたが……最後のは速くなるだけではなく、予想以上に重い一撃でした」
「剣技に関しては悪くはありませんが、残念ながら天才と呼ばれるような人達と比べてしまうと劣りますね。戦いに関する工夫のセンスはグラン様の年齢を考えれば十分に凄いと感じましたよ」
「ありがとうございます。一歩くらいは騎士団長を動かしてみたいと頑張りましたが……流石に今の時点では無理でしたね」
「剣術の経験差に加えてレベルによる圧倒的なステータスの差もあるので、流石に厳しいですね。レベルの上がったグラン様と手合わせするのを楽しみにしてますね」
「では、私は侯爵様への報告に向かいますのでそろそろ行きますね」
「はい! お疲れ様でした」
〜〜sideギルバート(騎士団長)〜〜
「ギル報告を頼む」
「まず、結果から申しますとグラン様の剣術に関しての才能は平均の少し上くらいになると思います」
「そうか。グランが剣術に興味があると聞いていたから少し期待していたが……悪くないだけ良いか」
「そうなると……この時期から剣術に時間を使い過ぎるのは勿体ないかもしれんな。ギルはどう思った?」
「初めは私も同じ事を考えましたが、時間が経つにつれ少しずつ考えが変わりました」
「ッッ本当か!? 続けてくれ」
「模擬戦を開始して数分間は基本的な攻撃を繰り返すだけで、良くも悪くもないと思いましたが……一度距離を取って、呼吸を整えてから動きが速くなりました。
それからしばらくするともう一段階速くなり緩急を付けながら攻めて来ました」
「更に数分が経過すると、もう一度距離を取り呼吸を整えてから私に『もう手札が殆ど無くなりましたので……次の一撃で最後にしますね』と伝えて来ました」
「そこからグラン様の雰囲気や顔付きが変わり正面から私の方へと走り出しました。あと数歩のところで更にもう一段階速くなり、それだけでも十分に驚いたのですが……振り下ろす瞬間に、何かを決意した様な強い意志が表情に表れ受け止めた剣は――ありえないと思いました」
「ッッ!? 何がありえないと?」
「一つ目はレベルを上げる事ができないグラン様が出した威力です。二つ目は受け止めるまで変化をあまり感じませんでした」
「段階的に速くなった時は【身体強化】スキル、【加速】スキルだろうと予想は出来たのですが……最後の一撃は何だったのか? 全くわからず驚いてしまいました」
「剣術だけで言えば、今からやるほどのものではありませんでしたが、グラン様の戦闘に関しての才能はかなり高いです。剣術の稽古を通してこの才能を更に高めることは、リスクに見合った十分なリターンを得られると私は思いました」
「そうか! そうか!」
「まさか剣術ではなく戦闘の才能があったとはな……だからグランは剣術に興味を持っていたのか! 実に良い報告が聞けた。
ならば、グランが望めば空いた時間に剣術をやらせるのも悪くない。ギル、これからは週に一度グランを見てやってくれ」
「承知しました」
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