第8話 剣術

 今日は朝からテンションが高い。

 その理由はディーナ先生の授業が予定よりも進んだことにより、剣術の稽古が一ヶ月はやく出来ることになった。



 今日がその剣術初日だ!



 その知らせは確認テストをした日、夕食の席で父上が話してくれた。

 勉強について褒められた後、少し変わった形をした一本の剣をプレゼントされた。


 その剣について父上に聞いてみると、自主練習用に作られた素振り用の剣らしい。

 今年は素振り剣、模擬戦・稽古用の剣、魔物狩りなど実戦で使える剣を含め、三本も誕生日プレゼントで貰えるのでかなり嬉しい。

 模擬戦、稽古用の剣は、今日の稽古前に貰えることになっているから楽しみだ。



 そんな感じで気分の良い朝を迎えた俺には今からやる事がある。


 毎月23日の朝はゆっくりステータス画面を見ながら自身の成長を再確認して、今後の目標などを考える時間にしている。



「ステータス」



 ――――――――――――――――――――


【名前】グラン・レイブン

【種族】人族

【年齢】5

【レベル】0 (封)

【HP】72/72

【MP】2910/2910

 


【攻撃】19 (上限50)

【防御】13 (上限50)

【敏捷】30 (上限50)

【魔攻】50 (上限50)

【魔防】50 (上限50)

 


 <固有スキル>

(【圧死奪纏】) (【鑑定・偽装】)

 <スキル>

(【重力魔法5(制限)】)

【水魔法3】【土魔法3】

【魔力感知3】【魔力操作3】

【魔力制御3】【魔法耐性3】

【気配察知3】【聞き耳3】【忍び足2】

【身体強化2】【体術1】【加速1】

【言語理解6】【速読5】【暗記6】

【算術6】

 


(【 】) 偽装の効果により本人のみ確認可能

 


 ――――――――――――――――――――

 



 一番注目すべきは【重力魔法】スキルがレベル5に上がったこと。

 【言語理解】スキルなどの前世での経験補正でレベルが上がったスキルを除けば、初めてのレベル5になる。

 


 【重力魔法】スキルはレベル3から4に上げるのに約一年掛かり、4から5は約二年半掛けてやっと上げることができた。

 


 スキルレベル3までは集中して育てれば半年も掛からずに上げることができる。

 スキルレベル4以上となると年単位で時間が掛かるので、どのスキルを優先的に上げるかは非常に重要なポイントだと思う。

 



 次に注目するのは剣術の稽古で使えそうなスキルだ。今のところは【身体強化】スキルと新しく取得した【加速】スキルの二つだと思っている。


 【加速】スキルは重力負荷を掛けた状態から負荷を無くしたりとかしながら走っていたら取得とすることができた。

 予想だと一秒以内に速度を1.5倍以上に上げるとかが条件で、それを繰り返したことが取得に繋がったのではないだろうか?


 【加速】スキルはその名の通り、発動すると速く動けるようになる。レベル1だと体感で1.1倍くらい速くなると感じられた。

 剣術はまだ素振りしかやった事のない素人だけど、【加速】スキルなどを使ってスピードに緩急を付けて攻めるのは使えるのでは?



 現時点では大きく分けて、三段階スピードを上げることができる。


 一段階目は自分自身に掛けた重力負荷を解除する、二段階目は【身体強化】スキル発動、三段階目は更に【加速】スキルも発動した状態になること。


 まだ重力魔法を自分自身に対して発動してスピードを上げることは出来ていない。

 重力負荷みたいに体が重くなる分には問題ない。逆に体を軽くして早く動くことは試してみたが……上手く走れないかバランスを崩して転びそうになった。


 三段階スピードを上げることが出来るようにはなったが……いきなり二、三段階スピードを上げると同じようにバランスを崩したりするので、一段階ずつ上げる必要がある。


 緩急に関しては、一気にスピードの段階を上げられる様になること。重力魔法を使ったスピードの上げ下げを上手くできる様になる事の二つが課題になっている。


 これからも毎日、体を鍛えて新しいスキルを取得し、スキルレベルを上げていけば出来るようになると信じて頑張ろうと思う。






 〜〜二週間後〜〜



 今は新たな日課の一つとなった。レーヴァン騎士団の訓練場で教えられたことを意識しながら素振りをしている。


 剣術の稽古は、レーヴァン騎士団の教育係の一人から丁寧に剣の持ち方や基本的な構えなど剣術の基礎から教えてもらった。

 稽古が始まってから二週間が過ぎたが、初日から同じメニューを繰り返している。


 レーヴァン騎士団の騎士達に挨拶しながら与えられた場所へと行き、基本的な構えをしっかりと意識してから素振りを繰り返す。


 上段の構えで100回素振りをしたら、次は中段の構えで100回素振りをするみたいな感じで少しずつ体に覚えさせている。


 素振りが終わったら教育係の騎士に声を掛け、それぞれの素振りを確認してもらう。

 最後には模擬戦形式で軽く実戦的な剣術の稽古をする。

 模擬戦形式の稽古が終われば、最後に教育係の騎士から問題点などを指摘してもらう。



 そんな感じの流れで剣術を学んでいる。



 そろそろ今日の分の素振りを終えようと思っていると――足音が近づいて来ていることに気づき、音がする方へと視線を向けた。



 そこに居たのは――



「グラン様おはようございます。お話するのは今回が初めてですね。私はレーヴァン騎士団の団長を務めさせてもらっているギルバートと申します」



「初めましてギルバート団長。何度か騎士団の訓練を見学させてもらった時に、お見かけしたことがありました」


「まさかギルバート団長から声を掛けられるとは思っていなくて少し驚きました。本日はどの様な要件で?」


 俺の目の前にはレーヴァン騎士団の団長がいる。訓練を見学した時などに何度か見たことはあったが遠目で見るのと、目の前で見るのでは迫力が全く違う。


 騎士団長は俺の祖父がレイブン家の当主をしていた時にレーヴァン騎士団に入団した。

 年齢については詳しくは知らないが、30代後半から40代前半とまだまだ現役だ。


 見た目としては少し暗めの茶髪が邪魔にならない様に短髪で整えらていて、同じ色の顎髭が特徴的だ。

 レーヴァン騎士団の鎧は黒色に、所々土属性を表す茶の模様がある。騎士団長の毛の色にとても合っていて、彼の為に作られた鎧だと思ってしまうほど似合っている。

 体は無駄のない筋肉に身を包み父上よりも一回り大きく、背は同じくらいだ。


 侯爵家に従えているレーヴァン騎士団の中で最強の男だけはある。流石に父上と比べてしまうと実力は落ちるが、剣術に関してなら父上よりも上だと聞いたことがある。



 選定の儀を終えてから学園に入学するまでの間は、関わることもあるが……どうして? このタイミングで現れたのか。



「それはですね――」






 〜〜sideギルバート(騎士団長)〜〜



 午後の訓練が終わり、しばらくすると私の元に部下の一人がやって来た。



「ギルバート団長お疲れ様です! 侯爵様から伝言を預かってます。『都合が良い時に執務室へ来て欲しい』との事です」



「報告ご苦労」


 部下から報告を受けた私はすぐに訓練場から執務室へと向かった。

 入室後、侯爵様に勧められた対面の席へと腰下ろし会話を始める。



「ギルよく来てくれたな。今回はお前に一つ頼みたい事があって呼びつけた」



「頼み事ですか……どのような?」



「長男のグランについてだ。レイブン家の伝統通り今年から教育を始め、既に家庭教師から教養を学んでいるのだが……予想以上に勉強が出来るらしくてな、予定してたより数年も早く学び終えてしまうのだ」


「そうなると数年間、家庭教師の授業を受けるはずだった時間が空くことになる。

 その時間をどうするかと悩んだ結果、才能がある様なら剣術の稽古を増やす事もありだと思い、一度お前の目で確かめて欲しい」



「なるほど……グラン様は意欲的で?」



「ああ、勉強よりも興味があるみたいだ。グランの誕生日の朝に聞いた話だが、騎士団の訓練を見学して興味が湧いたらしい」



「それならば、一度試してみるのも良いですね。剣術の方はいつからですか?」



「来週からと考えてはいるが、騎士団としては大丈夫そうか?」



「問題ありません。そうなると……まずは二週間ほど騎士団の教育係に任せ、三週目に私がグラン様と模擬戦をしてみて判断するのが良いですかね?」


「それで良いだろう。どちらにせよ模擬戦後は私に報告を頼む」



「了解しました」



「今回は時間を作ってくれて助かった。報告を楽しみにしているよ」



「はい、それでは私は失礼します」







 〜〜sideグラン〜〜



「――という事ですね」



「そういう事ですか。確かに父上には勉強よりも剣術の方に興味があると話しましたね」


「剣術の稽古が予定より早くなったとは聞いてたのですが……まさか、このタイミングで騎士団長に見てもらえるとは思ってもいませんでした」




 なるほど……家庭教師の授業時間が減った事と俺が剣術に興味を示したことで、今の時点から騎士団長に才能を見極めさせる。

 それなりの才能があるようなら例外ではあるけれど、今の時期から騎士団長に指導してもらう価値は充分にあると考えたのか。




「一般的には選定の儀を終え、本格的な剣術を必要とした場合のみですからね。

 授けられた固有スキルが魔法関連ならまだ良いですが、生産系などの非戦闘系スキルだった場合だと無駄になってしまいますから、グラン様のように余裕がある方以外だとリスクが高過ぎますからね」



「そうですね。自分の場合は教養の授業が予定よりも早く終わるので時間的な余裕がありますが、勉強が苦手なら剣術は最低限にして教養をしっかりと学んで、選定の儀の結果次第で判断するのが賢い選択になりますよね」


「模擬戦は今からですよね?」



「グラン様が今からでも問題なければ、そうなりますね」



「問題ありません」



「では模擬戦を始めましょう。私からは一切攻撃しないので、グラン様の好きなタイミングで自由に攻めて下さい。手札が切れるか体力が尽きたところで模擬戦を終了とします」



「わかりました。それでは、模擬戦よろしくお願いします」


 模擬戦という名の――試験がこれから始まるのか……少しの緊張はあるものの、それ以上に考えていた事をいろいろと試せる最高の機会にテンションが上がってきた!!



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