第11話 グロース帝国

 実力主義国家――グロース帝国。



 今から約700年前の8月8日。帝都グローリアにある〈無のダンジョン〉前広場に並んだ初代皇帝パーティーの七人によって、帝国の建国宣言がされた。




 帝国が建国される前までは〈無のダンジョン〉を中心にして東西南北のそれぞれに王国と名乗る四カ国があった。

 四カ国は〈無のダンジョン〉などを巡って争ってはいたが、力が均衡していた為にどこの王国も手に入れることが出来なった。


 その結果、帝都グローリアは帝国が建国するまでの間は『中立都市』や『自由都市』などと多くの者に呼ばれ、何処の国にも属していない場所だった。


 更に〈無のダンジョン〉から南東と北西へと馬車で一週間ほどのところにもダンジョンは存在していた。

 南東には〈光のダンジョン〉があり、南と東の王国が争った。

 北西には〈闇のダンジョン〉があり、北と西の王国も同様に争っていた。


 帝国建国以前は〈無のダンジョン〉を中心として四カ国がダンジョンを巡って争う――



『ダンジョン戦争時代』だった。



 なぜ四カ国がダンジョンを巡って争うのかと言うと、全ての国の建国にダンジョンが大きく関わっているからだ。



 東の王国には〈火のダンジョン〉があり、ダンジョンで成り上がった冒険者の一人が初代国王となり東の王国が建国した。

 帝国の帝都に〈無のダンジョン〉があるのと同じく、〈火のダンジョン〉がある場所を王都とした。


 ダンジョン攻略を進めることによって個人としても強くなれるし、ダンジョンから得られる資源を使うことによって国はより大きな発展を遂げることができる。



 この世界では『ダンジョンが存在する場所に国が生まれる』とまで言われている。

 同様の理由で他の三カ国もそれぞれダンジョンを所持していた。


 四カ国のダンジョンをまとめると。


 東王国 王都 〈火のダンジョン〉

 西王国 王都 〈水のダンジョン〉

 南王国 王都 〈風のダンジョン〉

 北王国 王都 〈土のダンジョン〉


 また所持しているダンジョンの影響もあって東の王国は『火国』と呼ばれ、西の王国は『水国』、南の王国は『風国』、北の王国は『土国』と多くの人々に呼ばれていた。


 建国してからしばらくの間は、それぞれのダンジョン攻略に力を入れていたので平和な時代が続いたが……ほぼ同時期にダンジョン攻略限界を迎えた。


 そうなると自国のダンジョン以外も注目され〈無のダンジョン〉〈光のダンジョン〉〈闇のダンジョン〉の3ダンジョンがあった地域に住む人々は四カ国の『ダンジョン戦争』に巻き込まれることになる。



 そんな時に――救世主が現れた。



 それが初代皇帝を中心とした冒険者パーティー『グロース』であった。


〈無のダンジョン〉前広場に現れた七人の冒険者は『ダンジョン戦争を終わらせる!!』と大勢の前で宣言し――たった二日後には、四カ国の全てが滅び初代皇帝に跪いた。



 冒険者パーティー『グロース』は広場での宣言後に、まず皇帝と六人の2グループに分かれて行動した。


 その後はグループごとに担当した王国の王都へと向かって王城を制圧した。


 制圧後は王族などの貴族を集め、反抗する者は容赦なく排除し、残った者の中から一人の代表を決め、王城から全ての人達を強制的に外に出させた。


 そして残った王族、貴族達の目の前で――王城を消し飛ばした。


 この様な流れで一日二カ国が滅ぶというありえない快挙が二日連続で起こった。



 その後、四カ国の代表には侯爵位が与えられダンジョン管理を任された。


 北王国の代表者に選ばれた者がレイブン家初代当主となり〈土のダンジョン〉のある王都だった場所は、名前が代わり現在ではレーヴァン領の領都レイブンと呼ばれている。



 帝国は7ダンジョンを所持し、その内の火水風土ダンジョンを四侯爵家が管理、残り3ダンジョンを皇族が管理している。






 グロース帝国が実力主義国家と呼ばれるようになった理由は建国宣言時に、初代皇帝がした演説の内容が大きく関わっている。



 それは――次期皇帝を決める方法。



『皇帝とは、最強で無ければならない! 弱くては――大切な国民を守る事が出来ないからだ!! 最強であれば余裕ができる。弱ければ――国民を守る余裕はできない!! だから、どの世代でも一番強い者が皇帝になるべきだと俺は思う』


『……次の皇帝は、皇子の中で一番強い者を皇太子とし――同世代の中で一番強い者と皇太子を国民の前で闘わせ、勝者を次期皇帝とすることにする』


『同世代の中で一番強い者を決める大会を――《皇女の騎士大会》とする。この大会は第一皇女が15歳の年の建国記念日に開催し――前後三歳なら孤児でも、平民でも、冒険者でも、貴族でも誰でも参加して良い』


『大会の優勝者は第一皇女と婚約し、皇女が20歳の年の建国記念日に、皇太子へ挑戦する事ができる事にする。また第一皇女が婚約を拒否したい場合は、優勝者と第一皇女が決闘し、第一皇女が勝てば拒否を認め――負ければ嫌でも皇族の務めとして婚約すること』



 この様な演説をしたことが理由で実力主義国家――グロース帝国と呼ばれている。


 約700年の時が経ったが、帝国の皇太子に勝った者は現れなかった。


 ある時から皇太子へと挑む者は誰も居なくなり《皇女の騎士大会》のみが、現在の帝国で行われている。



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