第56話 衝撃の事実
〜〜sideギルバート(騎士団長)〜〜
「皆さんお待たせしました。父上は次男の突然の死によって憔悴してしまいました。なので本日に限り――私が代理でレイブン家当主を務めさせて貰いますね」
「最初は一番重要な事から言いますね。この場で見聞きした事の全てに箝口令を敷きますので、絶対にレイブン家外で話さないで下さいね? もしも話した場合は、その者をレイブン家の敵としてみなします」
グラン様が言葉を発したことによって、ようやく事態が動き始めた。
突然の当主代理宣言には、多少の驚きはあったが……決闘開始からの出来事と比べたら大した事ではない。
箝口令に関しては妥当な判断だろう。
「今から順番に指示を出します」
「まずはメイドの皆さんから。メイド長はこの場に残り、それ以外の者は父上と一緒に執務室へと行き待機していて下さい。精神が安定するような効果のある紅茶でもあれば、父上にお願いします」
「「「「「かしこまりました」」」」」
「父上もそれで良いですね? 事態が収まり次第、私も執務室に向かいますので詳しい説明はその時まで待っていて下さいね」
「ああ、必ず説明してくれよ」
グラン様に掴み掛かり無力化されてからずっと黙っていた侯爵様は小さな声で返事をしてからメイド達に連れらて行った。
今代の侯爵様は若くして跡を継いだ為に、先代様と比べてしまうと貴族家の当主として振る舞いきれないところがある。
グラン様が侯爵様に言った『侯爵家の当主が家臣達の前で取り乱すなんて』は間違ってはいないが……成人もしていないグラン様がこの様な事を言うとは思わなった。
「次に騎士団の皆さん。騎士団長はこの場に残り、それ以外の者は……そこに転がっている第二夫人を牢屋に連れて行き、指示があるまで待機していて下さい」
グラン様が『騎士団の皆さん』と言った瞬間から今まで耐えていた圧力からようやく私達は解放された。
「最後に執事の皆さん――」
訓練所に残された私、執事長、メイド長の三人は決闘を観戦していなかった者達を一ヶ所に集め、待機させるようにとの共通の指示と個別の指示が出された。その後はグラン様の指示通りに皆が動いた。
そして現在は執務室に侯爵様、グラン様、私、執事長、メイド長のみが集められ、これから詳細な説明がされるところだ。
侯爵様とグラン様は対面のソファーに座り、私達三人はその横に立っている。
「父上、少しは落ち着きましたか?」
「ああ、正直……まだ整理が出来てないが、少しは冷静さを取り戻せた」
「それは良かったです。いろいろと聞きたい事はあるでしょうが……まずは、父上が一番気になっているだろう。なぜ、僕が義弟を殺したのか? それからでよろしいですか?」
「そうしてくれ。どうか……私が納得できるような説明を頼む」
「執事長――例の準備を」
「承知しました」
グラン様の指示を受けて執事長が執務室を後にした。侯爵様、私、メイド長は何も知らされていなかったので、困惑しながら執事長が戻って来るのを待つ。
「ただいま戻りました」
「「「ッッ!?」」」
事態を知らなかった私達三人は驚きを隠せない。なぜなら執事長の後ろに、決闘を観戦していた騎士達に連れられて第二夫人様が口に布を詰め込まれた状態で連れて来られたのだから無理もない。
「んん!! んんっ!!!」
「あなたは口を塞いでもうるさい人ですね? 少しは静かにしてくれませんか? 執事長――例の物をそこに」
第二夫人様が必死に声を出そうとしながら暴れているのをグラン様が呆れたような声で注意した。それから侯爵様とグラン様の間にあるテーブルを指差しながら『例の物』を置くように言う。
「「「ッッ!?」」」
執事長が『例の物』に覆い被さった布を捲り上げると、私達はまた驚かれた。
なぜならそれは――
「『血統鑑定板』だと!?」
「そうですよ。騎士団の方――第二夫人の血をお願いします」
私達は分かってしまった――『血統鑑定板』を見れば誰でも想像できてしまう。騎士団の一人が暴れる第二夫人様の指をナイフで軽く切ってからナイフをグラン様へと渡す。
「父上もお願いしますね」
「……」
執事長から渡されたナイフで侯爵様は無言のまま指を軽く切って、グラン様へと血の付いたナイフを渡す。
「これで準備は整いました。それでは、最後に義弟の血を『血統鑑定板』に」
皆が注目する『血統鑑定板』には――。
――――――――――――――――――――
[血統鑑定結果]
[リック・レイブン]
フリア・レイブン/――――――
――――――――――――――――――――
「そして、証明の為に私の血も」
――――――――――――――――――――
[血統鑑定結果]
[グラン・レイブン]
――――――/ラクサス・レイブン
――――――――――――――――――――
「これで分かりましたよね? レイブン家次男リック・レイブンは父上の子ではなかったのですよ……だから私の手でレイブン家を偽る者を処分しただけのこと」
「恐らく本人は知らなかったでしょうが……グロース帝国――四大侯爵家のレイブン家を正当な血統者以外に継がせる訳にはいかないし、そんな者が存在してならないでしょう」
「詳しくはそこにいる元第二夫人様に聞けば色々とわかると思いますよ。例えば、そうですね……ダラックという男とか?」
この衝撃の事実はまだ若い侯爵様の心を壊すには、十分過ぎる爆弾であった。
「父上? 嘘でしょ……あなたは侯爵家の当主なんですよ? その自覚はないんですかね……メイド長――私が父上を寝室まで連れていくので、その後はお願いしますね」
「か、かしこまりました」
ショックのあまり放心状態になってしまった侯爵様をグラン様が連れていく。
私は元第二夫人に視線を向ける。
先程まで顔を真っ赤にしながら暴れていたのだが、今では顔色が真っ青になり小刻みに震えている。
ずっと隠し通せると思っていただろう大きな秘密をグラン様に暴かれたのだ。
これからの未来についてでも考えて、絶望でもしているのだろうか?
しかしグラン様が口にしていたダラックという男が本当の父親だったとすれば……なぜその事をグラン様が知っているのか?
また一つ新たな疑問が生まれてしまった。
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