第57話 冥土の土産

 今日、俺は自分の手で人を殺した。



 義弟だと思っていたリック・レイブンから逆恨み? の様な理由で決闘を挑まれた。


 先週行くダンジョンもなくなり、どうするか? と自室で悩んでいた時に呼び出され、久々に会った父上から頼まれた。


 内心面倒くさいと思いながらも、する事もまだ決まらないし、まあ……いいかと思って悩む事なく決闘を受けると伝えた。


 父上は俺がすぐに返事をした為に、一瞬だったが驚きの表情を見せた。

 その後は、感謝の言葉を言われただけで、特に親子の会話もなく別れた。



 そして、決闘の日。

 それは突然の事だった。



 決闘の場所で時間潰しにステータス画面を見ていたら突然、強い殺気を感じた。

 人から殺気を向けられた事は人生で初めての経験だったが、魔物からは何度も殺気を放たれていたので特に驚きはしなかった。



 殺気には、驚かなかった。



 それよりも、俺はステータス画面の変化に驚かされたのだから。



 ――――――――――――――――――――


[第二の試練]


 ・決闘開始から一分以内に、相手の心臓に短剣を突き刺し勝利せよ。



〈達成条件〉

 リック・レイブンの死亡



――――――――――――――――――――



 この画面を見るのは選定の儀以来だ。


 初めは義弟リックとの決闘が試練? 簡単過ぎるだろうと思った。

 内容を読むと『一分以内』と『心臓に短剣を突き刺し』の条件があった。


 更に読み進めると達成条件が『リック・レイブンの死亡』となっていた。


 マジか……とは思ったものの、不思議な事に拒否感はなく、すぐに受け入れられた。


 そんな事を思っていると、騎士団長の声が聞こえてきた。なので、ステータス画面から視線を移すと同時に鑑定をする。

 


 ――――――――――――――――――――


【名前】リック・レイブン

【種族】人族

【年齢】10

【レベル】35

【HP】1250/1250(+300)

【MP】10845/10845(+3000)


 


【攻撃】450

【防御】450

【敏捷】450

【魔攻】450

【魔防】450

 


 <固有スキル>

【空間の支配者】

 <スキル>

【土魔法3】【空間魔法3】

【魔力感知4】【魔力操作4】

【魔力制御4】【気配察知3】

【身体強化4】【体術3】

【剣術4】【投擲3】

【受け身3】【受け流し3】

【言語理解5】【速読3】【暗記3】

【算術4】【地理4】

 <パッシブスキル>

【HPアップ(D)3】【MPアップ(D)3】


 ――――――――――――――――――――



 最初に思ったのは弱い。


 魔攻と魔防が俺より少し高いだけで、正直相手にならないだろう。



 なぜこれが試練なのか? とまた思った。



 そんな疑問を抱いていると感情がこもった声で決闘の宣言をし、俺に対して疑問を投げかけてきた。



「義兄様は……僕に対して、何か言いたい事とかはないんですか?」



「特にないな。あるとすれば……決闘をさっさと始めて欲しいくらいだ」


 これから命を奪う相手に対して、何を思えばいいんだよ? 特にないだろ?



 あるとすれば、早く終わらせたいだけだ。



 そして、騎士団長の開始の合図と共に決闘は始まった。【空間魔法】スキルを持った奴が視線で転移先を予告するなよ……。


 突然、消えてもさ……転移の場所が分かれば、何の脅威もないんだぜ。

 俺を殺したくて、そんな簡単な事も考えられないのかよ? そんなに恨まれる事したか?


 消えた瞬間に、俺は予告された転移先に向かって、ウルフ戦で使った重力魔法の重力非対称を弱めに発動した。

 更に振り向きざまに重力非対称から重力酔に切り替え、相手の武器を飛ばす。



 この技は魔物相手には出来ない。



 俺と同じ人体構造をしている相手にしか使えない、この技の特徴は酔わすこと。


 魔物相手だと、外から見た姿しか分からない。だから左右の重さを変えるイメージなら明確にする事は出来るが……それ以上となると魔物の肉体構造に関する知識を覚えたりと手間が多過ぎる。


 でも俺と同じ人なら? 明確により細かくイメージする事はそこまで難しくない。

 それならば、ザックリと左右で分けるのではなくて、もっと細かく分ける事ができる。


 例えば――A.骨…、B.筋肉…、C.臓器…と三つのグループに分けるとする。


 Aグループはそのまま

 Bグループは軽く

 Cグループは重く


 次は――


 Aグループは軽く

 Bグループは重く

 Cグループはそのまま


 こんな感じでグループごとの重さを変える事を順番に繰り返す。そうなると、脳はその情報をいつまで処理する事が出来るのか?


 だんだんと処理が追いつかなくなり、混乱してくるだろう。そうなれば酔った時の様に気分が悪くなり、体に力が入らなくなっても不思議ではない。



 そんな重力酔を受けた相手の武器を短剣で飛ばす事は簡単だ。



 なあ……リック。

 この技を受けるのはお前が初めてだぜ。


 決闘を挑んできた。


 殺意を向けてきた。


 お前が悪いんだぜ。


 これはお前の義兄として。


 最初で最後の送り物だ。


 冥土の土産だけどな……。



 そして、俺は義弟リックの胸を試練の条件通りに短剣で貫き殺した。


 その瞬間、俺の脳内で10年ぶりに聞く懐かしい声が聞こえてきたのだった。



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