第58話 試練で得た物

 〜〜神様からの脳内メッセージ〜〜



「十年ぶりじゃな少年よ」


「これは第二の試練を達成したことにより、儂からのメッセージが少年の頭の中で一方的に流れておるから会話は無理じゃよ」


「いくつか話さなければならない事があるが……まずは初の試練達成おめでとう」



「儂から少年に話す事は三つ」



「最初はリック・レイブンについてじゃ」


「少年が試練達成の為に、亡き者にしたリック・レイブンじゃがな……少年の義弟でもなければ、ラクサス・レイブンの子息でもない。彼の出産は、金に目が眩んだ荒くれ者のダラックとフリア・レイブンとの間に生まれたのじゃ」


「フリア・レイブンの父が、彼女にレイブン家との婚約話しをするまで関係を持っていたのじゃ。彼女は都合の悪い事をすぐに忘れて、その事実を隠したままレイブン家へと嫁いできた」



「ここまでは、儂が干渉する前と同じじゃ」



「本来であれば、早過ぎる妊娠に疑問を抱きリック・レイブンが生まれた日に、血統鑑定をするのが普通じゃ」


「しかし、儂の干渉により少年が生まれた日にレイブン家に関わる者達の記憶から血統鑑定に関する事を無くしたのじゃ」


「これについては儂と記憶を無くす前の少年が話し合って決めたことじゃからな」


「それにリック・レイブンを亡き者にした事は気にする必要はないのじゃ。なぜならば、彼は近い将来『呪機能カースシステム』の制裁を受けることは決まっておる。先程、少年に殺意を向けた時の様にな。いずれは力を持たぬ者達に対して理不尽な悪意を向けるのじゃ」



「次は試練達成報酬についてじゃ」


「第一の試練の報酬は『記憶封印』の一部解除となっておる。重力に関する知識の記憶と転生特典の固有スキルに関してじゃ」


「第二の試練の報酬は、本当の転生特典二つを再取得と技能低下じゃ」


「今の少年なら分かるだろうが、固有スキル【鑑定・偽装】は存在しない。それは元々ステータスプレートに備わっている機能の一つ『編集』で見え方が変わっているだけじゃ」


「少年が所持している本当の転生特典は固有スキル【鑑定】とリック・レイブンが授かったのと同じ空間魔法系統じゃった」


「リック・レイブンの死亡と同時に、少年の固有スキルと裏技で入れ替えたのじゃ。同系統なのに加え、所持していた固有スキル一つを技能低下させる事によってじゃな」


「その固有スキル【鑑定】は技能低下によって【魔物鑑定(技)】となった。それにより対象が魔物限定となり、見れるのも自身が取得可能なスキルに限るのじゃ」


「つまりは、固有スキル【圧死奪纏】に最低限必要な能力以外は無くなった」


「いろいろと複雑じゃが、これも儂と少年の交渉の結果じゃ。これを実現させる為の調整は本当に苦労したわい!」


「これだけの調整をし、少年を優遇してもじゃな……今の時点では、最後の試練で彼と戦い少年は敗れる」


「それも圧倒的な差で二度もじゃよ。そして二度目の敗北によって、少年は全てを失ってしまうのじゃ」


「ここから先の未来は儂でも見ることは出来ないし、今後干渉する事もないのじゃ」


「少年が次に儂の声を聞く事があれば、それは全ての試練を乗り越えた時じゃ」


「だから少年が未来を変えて、儂を楽しませるのじゃよ」



「最後に少年の体感時間とは違い。実際は一秒も経っておらん」


「これから皆が混乱するじゃろう。だから、儂から少年に最後のプレゼントじゃ」


「地上では『神残』と呼ばれている力を一時的に与える。この力は試練を乗り越えた者の保護を目的としておる。せっかく試練をボロボロになってまでも乗り越えたのに……弱った状態で魔物や敵に遭遇したら、気の毒で可哀想じゃからな」


「この『神残』は一時的に全ての能力が限界値にまで上がるのじゃ。魔力も無限に使えるから少年の重力魔法とは相性も良いじゃろうな。その代わり『神残』中は他者にダメージを与える事も傷付ける事もできないのじゃ」



「メッセージはこれで終わりじゃ。儂はこれから傍観者となり――」






 〜〜sideグラン〜〜



 試練達成と同時に神様からのメッセージが俺の脳内で始まった。

 メッセージを全て聞き終えると、止まっていた時間が再会した。



 そして、俺の感情は荒れ狂った。



 ――無力感。

 ――絶望感。


 原因不明な様々な感情が荒れ狂う中でも、無力感と絶望感の二つは特に強かった。


 地面へと仰向けに倒れた亡きリックへと視線が行くが……見ているのは先程、俺の短剣によって貫かれた胸だった。

 亡きリックの胸から血が溢れる度に、俺の感情も荒れていった。



 そんな感情を落ち着かせる為に、ステータス画面をボーッと見ながら、気を紛らしていると邪魔する者達が現れた。



「リッックーーー!!」


「いやぁぁーーー!!! 私のリックちゃんがどうして? どうして?」



 邪魔しないでくれよ!!

 今、必死に抑え込んでんだからさ。


 そんな苛立ちにあの女の叫び声が、更なる追い討ちを掛けてくる。



「グラーーーッンどうし――」



 その苛立ちを掴み掛かろうとしてくる父上に対して、重力魔法を振りかざした。

 本来ならそんな事は出来ないが、神残中の今なら父上だろうが、騎士団長だろうが抗うことはできない。


 重力魔法によって場を制圧後、感情のままに父上に声を掛けた。



「侯爵家の当主が家臣達の前で取り乱すなんて……見っともないですよ? てかさ〜誰のせいで今の状況になっているのか? 分かりますよね? 父上は地面を見ながら、少し頭を冷やしていて下さいね」



 それからは考える時間が欲しかったので、全員にジッとするように指示を出した。



「この場にいる皆さん、私もまだ状況整理中なので、しばらくの間はその場から動かずにジッとしていて下さいね」



 そして、またあの女が俺を苛立たせる。



「私のリックち ――」



 黙らせよう。


 そう思った俺は一瞬であの女の横に行き、そっと肩に手を乗せて呟く。



「《荒れ狂え》」



 先程、人相手に初めて使った重力酔。


 だが、今回のはレベルが違う。直接触れ、更に神残の強化に俺の感情を添えた。



「本当に困った人だな〜あなたは……」



 肩に乗せた手を後ろへと引く。


 今回の騒動の原因は無様な表情を晒しながら、地面へと無防備に倒れ気絶した。



 少しだけ気が晴れた気がした。



 その後、俺は落ち着きを取り戻し、今回の決闘騒動を治める為に新たな指示を出した。


 神様から告げられた。リックの出生を証明する為、執事長には『血統鑑定板』の準備を頼んだ。リックの出生を証明する際に、またあの女の声を聞くのは嫌だった。


 だから、連れて来る時は口に布でも詰めといてくれとも指示を出した。

 出生証明に関しては何事もなく終えることが出来たが、衝撃的な事実に父上が放心状態になってしまった。

 とりあえず父上を寝室にへと連れて行き、母上が帰って来たら何とかしてくれるだろうと判断し、後はメイド長に任せた。


 それからは急いで騎士団長、執事長が待つ執務室へと戻り話し合った。



 今日は本当に大変な一日だった。



 試練後の感情の荒れ、家族の問題とか色々と考えないといけない事はある。



 だけど、今日は止めよう。



「ステータス」



 ――――――――――――――――――――


【名前】グラン・レイブン

【種族】人族

【年齢】10

【レベル】56

【HP】2810/2810〈+760〉(+100)

【MP】105180/105180〈+822〉(+12000)


【攻撃】874〈+564〉(+80)

【防御】982〈+552〉(+200)

【敏捷】1480〈+447〉(+600)

【魔攻】392〈+162〉

【魔防】392〈+162〉

 


 <固有スキル>

【圧死奪纏】【空間の支配者】

【魔物鑑定(技)】

 <スキル>

【重力魔法6】【魔法支配4(制限)】

【空間魔法1】【水魔法3】

【土魔法6】【土魔法(D)5】

【魔力感知6】【魔力操作6】

【魔力制御6】【魔法耐性5】

【気配察知5】【聞き耳3】【忍び足3】

【身体強化5】【体術3】

【剣術5】【剣術(D)3】【短剣術4】

【加速5】【縮地2】

【受け身3】【受け流し5】

【見切り4】【並列思考4】

【言語理解8】【速読7】【暗記8】

【算術8】【地理5】

 <パッシブスキル>

【HPアップ(D)1】【MPアップ6】

【MPアップ(D)6】【MP強化3】

【防御アップ(D)6】【攻撃アップ(D)4】

【敏捷アップ7】【敏捷アップ(D)7】

【敏捷強化3】


 


 ――――――――――――――――――――



 変化があるのは第二の試練達成報酬で転生特典の固有スキル二つが再取得と技能低下されたこと。


 記憶が封印された後の俺は、固有スキル【鑑定・偽装】が転生特典だと思っていた。


 それについては試練を達成した後に、思い出す事ができた。まず、固有スキルの中には偽装の様な能力は存在している。

 しかし、俺が選んだ転生特典の固有スキルではなかった。

 実際に選んだのは鑑定と空間魔法が使える固有スキルの二つだった。


 俺が今までステータスを偽装してたのは、元々ステータスプレートに備わっている機能の一つ『編集』をしていただけで……他人に見せたとしても効果はない。

 俺が唯一ステータスプレートを見せた相手は父上だ。あの時は動揺していて、才能値以外の確認をしなかったのか? それとも神様が何かしたのか? は分からない。


 今まで偽装だと誤認して使ってた『編集』という機能はスキルなどが増えてきて、見づらくなってきた時に使うと便利な機能だ。


 例えば、ほとんど使わないスキルとかを〈非表示スキル一覧〉に加えて、そこを開かなければ見えないようにもできる。


 あとはHPとMPを数値ではなく、%で表示する事なども設定できる便利機能だった。



 第二の試練達成の固有スキルの再取得と技能低下についてだ。

 固有スキル【鑑定】は技能低下によって【魔物鑑定(技)】となった。



 これは神様からのメッセージ通りだ。



 問題は次の再取得だが……正直、今でも良くわからない。


 転生特典のもう一つは空間魔法関連の固有スキルだった。俺が所持していたのはサポート関連に分類されていたが、亡きリックの方はサポートの枠を越えていたのだろう。


 転生特典では、その固有スキルを俺に与える事が出来ないから試練、固有スキルの技能低下、同系統の固有スキルを消滅? など良く分からない方法で再取得という名の入れ替えを行ってくれた。


 そんな固有【空間の支配者】はどんな能力を持っているのか? 凄く気になるが……今、それを見てしまうと他の事が考えられなくなるのは分かっている。だから、我慢だ!


 亡きリックとの決闘騒動が完全に解決した後にゆっくりと確認しよう。



 第二の試練達成報酬に関しては確認が終えたが……第一の試練報酬が残っている。


 正直に言おう。

 俺は第一の試練報酬のがヤバいと思う。


 ――――――――――――――――――――

[試練報酬]


〈第一の試練報酬〉

 ・『記憶封印』の一部解除

〈第二の試練報酬〉

 ・固有スキルの再取得・技能低下

 ――――――――――――――――――――



 第一の試練報酬は『記憶封印』の一部解除なんだけど、俺は固有スキル【空間の支配者】取得よりもヤバいと思った。


 不思議だよな? 記憶が戻るだけで、再取得した固有スキルを越えるんだもんな。



 思い出したんだよ。



 最高にワクワクする楽しい事を。



 それは――



 引力と遠心力に関する知識なんだぜ。



 はやく魔物狩りしてーな。


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