第44話 呼び出し
〈紛れ込む小鬼ダンジョン〉は裏領都門から向かうことができる。途中までは〈岩の巨人ダンジョン〉の時と全く同じ道を進み、分かれ道まで来たら反対方向へと進んでいく。
冒険者ギルドの図書館で確認した地図を見た感じだと〈紛れ込む小鬼ダンジョン〉のが時間が掛かりそうだった。
昨日までは裏領門から片道一時間ほどでダンジョンまで行く事ができたが、今回はどれくらいの時間で行く事ができるだろうか?
そんな事を考えながら歩いている時に、ふとゴーレム周回中のある日に、父上から呼び出された時の事を思い出した。
「グラン……久しぶりだな」
「父上、お久しぶりです。今回はどのような件でお呼びになられたのですか?」
「シャルロッテ皇女殿下の件だ。賢いお前なら予想は付くと思うが婚約の件は流れた」
「やはりそうでしたか。あの日から何となくは予想してましたが……既に決まっているものだと思っていました。いつ頃、正式に婚約破棄が決まったんですか?」
「昨日、皇帝陛下から届いた手紙で正式決まったと書かれていた」
「なるほど……思ったよりも時間が掛かるものなのですね」
「本来なら遅くても三ヶ月以内には決まるのだが……今回の場合は、皇族の方で別件の問題があったらしくてな。その対応をする為に、グランとシャルロッテ皇女殿下の件は後回しになっていたそうだ」
「そうだったんですね」
父上から呼び出された内容は、第二皇女のシャルロッテ・グロースとの婚約が破棄されたという報告だった。
五歳の時に帝国城で俺とシャルはお互いに目が合った瞬間に特別な何かを感じて、まるで時が止まった世界に二人で居るような不思議な感覚になった。
その現場を目撃した現皇帝――ルーカス・エンペラー・グロースによって、俺たちが混乱している内に、あっという間に婚約が決まり俺たちは婚約者となった。
そんな俺とシャルは初めこそはお互いに緊張していて、上手くコミュニケーションが取れなかったが、次第にお互いの性格を少しずつ見せ合い好かれ合った。
目が合った瞬間に、お互い同時に初恋を自覚したこともあって、俺にとってシャルは運命の相手と呼ぶにふさわし女性だった。
帝都での顔見せからレーヴァン領に帰ってきてから五年近くも手紙のやり取りをし、選定の儀を終えた10歳の春に開かれる貴族の子息、令嬢の顔見せパーティーで再会する事をお互いに楽しみにしていた。
あと一年もしない内にまた会える。
そんな期待は俺の選定の儀によって、あっさりと崩れ去ってしまった。
手紙のやり取りをする時は父上に手紙を渡し、シャルは皇帝陛下に手紙を渡してお互いにやり取りをしていた。
あの日から父上とはほとんど会っていないから、もちろんシャルとの手紙のやり取りは止まっていた。
それもあって婚約の件は流れるだろうな〜とは思っていたが、婚約が破棄されたという知らせがなかった。もしかしたらと少し期待していたが、決定は遅れたものの婚約は予想通り破棄された。
あの日から分かってはいたが……父上からシャルとの婚約が破棄されたと聞いた時は、本当に悲しかった。
父上も皇帝陛下も俺たちが今後結ばれる未来はないと考えているだろうが、俺は諦めてないし希望はある。
選定の儀から始まった[第一の試練]を乗り越えることが出来れば、俺がカース持ちだと誤認されている状況から解放される。
――――――――――――――――――――
[第一の試練]
・固有スキル【圧死奪纏】が【足手纏い】と本人以外の者には表示される。
・【足手纏い】について認識した者はそれがカースであると誤認する。
〈達成条件〉
[第二の試練]を達成すること。
――――――――――――――――――――
その為には、いつ始まるか分からない[第二の試練]を乗り越えられるようにもっと! もっと! 強くならないと。
あれからほぼ毎日ダンジョンとかに通って魔物狩りをしていた事で、あの時の強い気持ちを忘れてしまっていた。ゴーレム周回中に父上から呼び出されたことによって、大切な事を思い出す事ができた。
そんな事を思い出しながら歩き〈紛れ込む小鬼ダンジョン〉へと着いた。地図で確認した通り〈岩の巨人ダンジョン〉と比べると、やはり片道30分ほど遠かった。
少し休憩を挟み、この〈紛れ込む小鬼ダンジョン〉で俺は更に強くなるぞ! と思いながら中へと入るのだった。
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