第45話 紛れ込む小鬼ダンジョン
俺は〈紛れ込む小鬼ダンジョン〉に入って軽く辺りを見渡した。
階層転移部屋は昨日まで通っていた〈岩の巨人ダンジョン〉と同じだと思う……軽く見ただけでは全く違いがわからない。
一階層入り口まで歩いている間も転移柱の位置や部屋の大きさなどを意識しながら見ていたが、やはり階層転移部屋は同じ造りをしていると思う。
そして一階層に入った瞬間――目の前には洞窟ではなく草原が広がっていた。
背の低い草が辺り一面に茂っていて、所々に木が生えているが森のように視界を遮ることもなく見渡しが良い。
とても自然的な空間で思わず、目の前に広がる自然の豊かさに空気を思いっきり吸いたくなったてしまうほどだった。
ここは本当にダンジョンの中なのか?と思ってしまうほどの衝撃だった。
〈岩の巨人ダンジョン〉の1階層では『こんな感じだよな』くらいにしか思わなく、すぐに2階層を目指して進み始めたが……今回は目の前に広がる予想外な光景にしばらく思考が停止した。
ある程度、頭の中で情報処理を終えた俺はもう一度辺りを見渡す。〈紛れ込む小鬼ダンジョン〉の1階層は一言で言うと広い! 〈岩の巨人ダンジョン〉の1から3階層までとは全く違くて、一番近いのは4階層だろう。
そうなると鑑定しながらレベルの高い方に進むのが良さそうだな。視界の何ヶ所かにホーンラビットが見えるから、魔物との遭遇率は悪くなそうだし、サクッと倒しながら2階層のセーフティエリア目指そう。
階層ごとの広さは〈岩の巨人ダンジョン〉とあまり変わらないみたいで2階層のセーフティエリアには30分ほどで、それから一時間半で3階層のセーフティエリアまで来れた。
1階層に入った時は〈岩の巨人ダンジョン〉よりも広いなと思ったけど、実際に進んでみると攻略時間はほとんど変わらなくてとても不思議な気分だった。
同じ難易度のダンジョンだから階層ごとの距離が同じでも理解はできるけど……やっぱり1階層に入った時のイメージの違いが強く残ってしまっている。
そんな事を思っていたが、一度頭を切り替えて次の3階層について考える。
このダンジョンに来た目的の魔物、ウルフは動きがとても速くて攻撃力もある。
冒険者ギルドの図書館で読んだ本には『ホーンラビットの完全上位互換』と書かれていて攻撃、防御、敏捷、魔攻、魔防の全てがホーンラビットよりも高いと書いてあった。
更にホーンラビットは単体で行動することが多いが、ウルフは群れで行動することが多い魔物だ。単体でもウルフのが強いのに、数も多いとなれば討伐難易度はかなり高くなる事が簡単に予想できる。
実はホーンラビット狩りをしていた森にもウルフが居たが、当時の俺では群れの数によっては厳しいかも知れないと思っていた。
なのでウルフがいる奥には近づかないようにし、ホーンラビット狩り後はウルフ狩りをするのではなく『スライム洞窟』を先に攻略することにした。
今は俺のレベルも上がったし、ゴーレムを二回纏ったりと防御面も強くなったからウルフの群れでも問題なく狩れるだろう。
ただダンジョンボスのウルフリーダーだけは少し不安に思っている。スライムが上位種のビックスライムになった時の討伐難易度の上がり方を思い出すと、ウルフの上位種もなかなか手強くなるのでは? と思ってしまう。
まあウルフリーダーについてはボス部屋の前に辿り着いてから考えるとして、まずはウルフについてだ。
恐らくだが3階層前半ではウルフの特徴の一つである。群れの脅威については警戒しなくても良いだろう。
なぜなら、ここはダンジョンだから。
自然界ならウルフは基本的に五匹以上の群れで行動する事が多いとされる。
例外としては逸れウルフや、強い魔物とウルフの群れが戦い仲間を失ったなどの理由から数が少ない事もある。
ダンジョンの場合ではどうなるのか?
ダンジョンで遭遇するウルフの数は階層難易度などによって変わるとされている。
つまり3階層に入ってからしばらくの間、単体のウルフに遭遇する確率が高くて、奥に進めば進むほど一度に遭遇するウルフの数は多くなるという事だ。
単体のウルフなら初見でも簡単に狩ることが出来るだろう。
討伐に慣れてしまえば、ウルフの群れでも問題なく戦えると思っている。
3階層に入ってすぐにウルフ一匹を見つけることができた。
草原エリアの場合は遮る物が何もなく、見晴らしが良いから魔物を見つけやすい。
ウルフまでは少し距離があり、お互いに警戒しながら少しずつ近づいて行く。
「《鑑定》」
――――――――――――――――――――
【名前】ウルフ
【レベル】32
【HP】750/750
【MP】231/231
【攻撃】539
【防御】308
【敏捷】676(+60)
【魔攻】154
【魔防】154
<パッシブスキル>
【敏捷アップ(D)3】
――――――――――――――――――――
やはりホーンラビットと同じで攻撃と敏捷が高くて物理攻撃に特化しているな。
耐久面に関してはホーンラビットの二倍ほどある感じか……防御と比べて魔防は半分しかないから魔法攻撃のが有効だとわかる。
近づいて見たウルフは灰色の毛並みをした狼型の魔物で、鋭い牙と爪が特徴的だ。
戦闘の際は鋭い牙と爪から繰り出す攻撃をメインに攻めてくるのだろうと、その見た目から想像する事ができる。
まずは魔法攻撃を使わず、短剣で戦いながらウルフの動きに慣れようと思っている。
右手に短剣を持ちながら更に近づく、あと五歩ほどのところで――ウルフが先に前足の爪を使って攻撃を仕掛けてきた。
ウルフの爪と短剣を交差させる前に、力の方向を見極めて攻撃を受け流し――お互いにすれ違う。その後もウルフが爪を使った素早い攻撃を何度も仕掛けてくるが、俺は初手と同じようにそれを受け流し続けた。
ウルフが攻めて、俺が守りながら避けるを続けること数分でウルフの動きはだいたい理解する事ができた。
そろそろ、重力魔法の検証を始めるか。
結果は俺の予想通りとなり、ウルフの強みを無力化し簡単に討伐する事ができた。
その後も遭遇するウルフに重力魔法を微調整しながら使い無力化した。
討伐すること二時間ほどで4階層のセーフティエリアに辿り着く事ができた。
4階層は初見の魔物は出ないので問題はないだろう。今日はこれで帰宅して、明日はサクッと4階層を突破してからボス部屋のウルフリーダーを狩るとしよう。
ウルフは既に簡単に無力化できるようになったからボス部屋はウルフリーダーに集中していれば問題ないと思うが……やはり上位種だとどうしても警戒してしまうな。
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