第52話 選定の儀(弟)
〜〜sideリック(義弟)〜〜
「母様、行ってきますね」
「行ってらしゃい。ラクサス、リックちゃんの事よろしくね」
「ああ、任せてくれ。リック行くぞ」
家を出る時間になって母様と別れ、僕と父様の二人で馬車に乗って教会へと向かった。
馬車に乗ってからの父様はいつもよりも固い表情になっていた。多分アイツの選定の儀が関係しているのだと思う。
全く、アイツは親不孝なヤツだな。
あまり会話をする事なく、レイブン家の屋敷から馬車で30分ほど掛けて教会前の広場に到着した。
教会の入り口へと、馬車を降りて父様と二人で徒歩で向かう。
「侯爵様、リック様――本日はようこそお越し下さいました。神官見習いの私が神官の元まで案内させて頂きますので、私の後に付いてきて下さい」
「ああ、よろしく頼む」
「お願いします」
教会の入り口で神官見習いが、僕達が来るのを待っていた。
神官の元まで案内してくれると言うので、父様と一緒に後を追う。
教会の中に入ると赤い絨毯の道があって、その先に1人の神官らしき人が立っていたから、彼が僕の選定の儀を行うのだろう。
彼の前まで案内され、僕と神官は軽く挨拶を交わした。その時の神官の表情を見るにアイツの選定の儀を行ったのも、目の前にいる神官だと思う。
父様を見てからとても気まずそうにしているからすぐに分かった。
「で、では今から選定の儀を行いますね。それではリック様は私の前まで来て下さい」
言われた通りに神官の前まで行くと、一枚の板が置かれていた。
「こちらの〈選定プレート〉にどちらの手でも構いませんので置いて下さい」
「わかりました」
「選定の儀を行います『我は神の代行者を任されし者、我の前に立つリック・レイブンの力を解放し、神の祝福をお授け下さい』」
神官も手を置き祈り始めた。
すると、〈選定プレート〉は強く光だして僕と神官を包み込んだ。
光が収まると〈選定プレート〉と呼ばれる板には文字が浮かび上がった。そこには、僕の名前――リック・レイブンと書かれた下に固有スキル【
そして神官はホッとした表情で告げた。
「リック・レイブン様は、神様から固有スキル【
「良くやったリック! 悪くない結果だ」
「僕は父様の期待に応えられたみたいで良かったです。この固有スキルはどれくらい強いのですか?」
「この後、才能値を確かめる為に近くの森へと行く。その途中で私が知っている範囲で教えてやるから少し待っていてくれ」
「わかりました」
「神官殿、去年に続き今年も選定の儀を行なってくれたこと感謝する」
「ありがとうございました」
神官に御礼を言って、僕と父様は教会を後にして馬車へと戻った。
父様と神官の二人の反応を見た限り、アイツと違って悪くはないみたいだ。
さっきから気になってしょうがない。
もう馬車の中だから我慢せずに、僕から父様にどんな固有スキルなのか聞く。
「父様、僕が授かった固有スキルにはどのような力があるのですか?」
「リックが授かった【
それで合っているのなら、リックは【空間魔法】スキルを既に取得している。今朝、私が教えた方法でステータスプレートを確認してみると良い」
「わかりました。 ステータス……あ、ありました。【空間魔法】スキルがありました」
――――――――――――――――――――
【名前】リック・レイブン
【種族】人族
【年齢】10
【レベル】0
【HP】250/250(+100)
【MP】2500/2500(+1000)
【攻撃】50
【防御】50
【敏捷】50
【魔攻】50
【魔防】50
<固有スキル>
【空間の支配者】
<スキル>
【土魔法3】【空間魔法1】
【魔力感知3】【魔力操作3】
【魔力制御3】【気配察知3】
【身体強化3】【体術2】
【剣術3】【投擲3】
【受け身2】【受け流し3】
【言語理解5】【速読3】【暗記3】
【算術4】【地理4】
<パッシブスキル>
【HPアップ(D)1】【MPアップ(D)1】
――――――――――――――――――――
「やはり、そうか。その事から分かるのは、リックが授かった固有スキルは空間魔法に関連しているという事だ」
「空間魔法とは……どのような魔法なんですか? 火属性や水属性の魔法などは知っているのですが……空間魔法については今日初めて知りました」
「使用者が少ないから知らないのも当然だろうな。空間魔法関連の固有スキルは珍しく、自力で【空間魔法】スキルを取得することは他の魔法と比べても難しい事から使用者が少ないのだよ。
空間魔法は簡単に言うと、名の通り空間を操る魔法だ。発動者だけが使用できる特別な空間を作ったり、空間と空間を繋げたりする事ができる魔法だな」
「空間を操れると強いのですか?」
「使い方にもよるが、強いというよりも便利な魔法だ。一般的には、補助や支援を担当する者が使う事で良く知られている」
「なるほど……戦闘向きではなく、どちらかというとサポート向きの魔法なんですね……そうなるとあまり強くはないんですかね?」
「今の段階で言えば、ほとんど戦闘の役には立たないだろうな。空間魔法の特徴の一つとして、魔力消費が多いという欠点があるから魔力量が増えるまではな」
「その代わり魔力量が増え【空間魔法】スキルのレベルも高くなれば、『転移魔法』などと呼ばれる複数の空間を繋げて移動する魔法を使えば、ここから帝都まで数秒で移動することもできる凄い力がある。
転移という魔法は移動距離に比例して魔力消費が変わる。短距離ならば、何回も使用する事ができるようになる。そうなれば戦闘中に相手の背後に一瞬で移動したりと、戦闘面でも使うことは可能だ」
「それは良かったです。戦闘に全く役に立たなかったらどうしようかと思いました」
「心配するほど悪い固有スキルではないから安心しろ。それにな、リックの固有スキルは他の空間魔法関連の固有スキルの中でも強い方だと私は思っている」
「ほ、本当ですか!!?」
「空間魔法の固有スキルとして良く知られている――【
【
「僕も知っています。魔法使いよりも魔法士のが強く、魔導士は初めから完成しているんですよね?」
「その通りだ。この三つは魔法関連の固有スキルの中では、授かる確率が高い事から一般的に良く知られているな。
なぜ私がこれらの三つよりも強いかと思ったのか? それはな、レイブン家歴代最強だったと言われている方が授かった固有スキルの名が【
「レイブン家歴代最強ですか? その方はどれほど強かったのですか?」
「その時代のグロース帝国はまだ他国と戦争をしていてな。【
その時の戦争は何カ国かが手を組み、多方面からの同時侵略でグロース帝国内に攻め込もうとしてきたのだ。
その内の一カ国の軍をたった一人で壊滅的な被害を与え、追い返したのが当時のレイブン家当主だったと言われている」
「そんなに強かったんですか? 大地というと……土属性魔法の上位属性と言われる大地属性魔法の事ですよね?」
「そうだ。もちろん最初は【
「わかりました」
「さて、森に着いたようだな」
父様から僕が授かった固有スキルについて聞いていたら、あっという間に馬車は森へと辿り着いていた。
馬車から降りて父様の後を追いかけること10分ほどで魔物一匹と遭遇した。
「ゴブリン一匹なら問題ないだろう。リック心の準備が出来たら狩ってみろ」
「わかりました!」
アイツでも目の前にいるゴブリンと呼ばれる禿げ頭で目つきが悪く、醜い顔をした気持ちの悪い魔物を狩れたんだ。
この僕が苦戦するはずがない!
初めての狩りは少し緊張したが、アイツへの対抗心のおかげか? 恐怖心を全く感じずに討伐することができた。
それから何匹かのゴブリンを討伐したところで父様から声を掛けられた。
「リック、既にレベルは上がっているだろうから私にも見えるようにステータスプレートを開いてくれないか?」
「わかりました。ステータス」
――――――――――――――――――――
【名前】リック・レイブン
【種族】人族
【年齢】10
【レベル】1
【HP】260/260(+100)
【MP】2575/2575(+1000)
【攻撃】55
【防御】55
【敏捷】55
【魔攻】55
【魔防】55
<固有スキル>
【空間の支配者】
<スキル>
【土魔法3】【空間魔法1】
【魔力感知3】【魔力操作3】
【魔力制御3】【気配察知3】
【身体強化3】【体術2】
【剣術3】【投擲3】
【受け身2】【受け流し3】
【言語理解5】【速読3】【暗記3】
【算術4】【地理4】
<パッシブスキル>
【HPアップ(D)1】【MPアップ(D)1】
――――――――――――――――――――
「ッッ!? 『オール・ファイブ』だと……」
「本当ですね!! 父様の期待に応えられて、僕はとても嬉しいです」
「良くやったリック!! 空間魔法の固有スキルは補助や支援が一般的だが『オール・ファイブ』に加えて【――支配者】の固有スキルの可能性を考えれば……もしかするとレイブン家歴代最強当主になる事も夢ではないかもしれんな」
「そうなれるよう頑張りますね」
「リックは神様からとても良い祝福を貰う事ができたな。おめでとう」
「父様ありがとうございます。早く帰って母様に報告したいです」
僕はカース持ちで才能値『オール・ワン』になったアイツと違い、父様の期待を裏切らずに応える事ができた。
あの日からずっと楽しみに期待していた選定の儀は、僕にとって最高の結果で終えることができた。
僕はふと思った。
もしかしたら僕は……神様に選ばれた特別な存在なのかもしれないと。
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