第51話 それぞれの前夜
〜〜sideラクサス(父)〜〜
「明日か……」
私ラクサス・レイブンは執務室で強めの酒を片手に一人で夜空を眺めている。
以前は執務がなければ執務室で過ごすことはなかったが……あの日からは一人の時間が欲しくて用もないのに何度も訪れている。
思い出すのはあの日のこと。
グランの選定の儀の結果を見てからの神官のやや戸惑った表情は今でも鮮明に覚えているし、神官から告げられた『グラン・レイブン様は……神様から固有スキル【足手纏い】を授かりました』は何度も思い出す。
初めは良く分からなかったが……神官の表情と名前から良くない物だと分かった。
そこから私は恥ずかしい事に神官から『名前だけではカースだとは判断できませんよ。グラン様のレベルを上げ、才能値を確かめて見てはどうですか?』と言われるまでの間、侯爵家当主の振る舞いとしては褒められたものではなかったし取り乱していた。
その後は近くの森でレベルを上げさせ、気まずそうなグランからステータスプレートを見せてもらい才能値が『オール・ワン』だという事が判明した。
これで名前だけではなく……本当にカース持ちだったのだと分かり辛かった。
それから私達の関係も変わってしまった。
そんな去年の選定の儀が私の中では、トラウマの様な物になり不安で寝れずにいる。
どうか……次男のリックはギフトを貰えますようにと、夜空に向かって願うのだった。
〜〜sideフリア(義母)〜〜
私フリア・レイブンは自室のテラスで紅茶を飲みながら夜空を眺めているわ。
明日は私のリックちゃんの選定の儀があるから前祝いで一番高級な紅茶にしたわ。
紅茶の香りを楽しみながら、眺める夜空は本当に最高だわ。本来なら、不安や緊張からテラスで呑気に紅茶を飲むことなんて出来なかったわ。
でもあの女の息子がカース持ちとなったおかげで心配する必要がないのだもの。
もちろん良いギフトをリックちゃんが貰えるのか? とか心配はあるけれど、どんな結果になろうともカースには負けないわ。
だから本当に明日が楽しみなのよ。
もしリックちゃんの結果が良かったら、数ヶ月以内にあの女の息子と決闘させて屋敷内の立場をハッキリさせときたいわね。
私は第二夫人、側室というふざけた立場にいる事は変えられないけど、決闘でリックちゃんが勝てば次期当主は決まったようなものになるわ。
そうなれば事実上は私が第一夫人、正妻という本来いるべき立場になれるわ。
早く明日にならないかしら。
〜〜sideリック(義弟)〜〜
僕リック・レイブンは自室のベッドで目を瞑りながら明日の事を考えている。
明日、5月2日は僕の誕生日だ。
今年は選定の儀が行われる。
とても大事な運命の日となる。
僕は五歳の頃から義兄のアイツに対して、強い劣等感を抱いている。最初は努力すれば追いつけると思っていたけど……悔しいことに努力で追いつけるレベルじゃなかった。
その事に気付いた時の強い絶望感は今でも忘れられない。だから僕は嫌でもアイツには勝てないと常に思いながら生きてきた。
そんな僕が劣等感から解放されたのは、去年アイツが選定の儀でカース持ちになったと母様が知らせてくれた時だった。
けど本当の意味で解放されるのは明日の選定の儀だ。ついに、この僕がアイツよりも優れている事が証明される。
そうなれば、僕はやっと劣等感から完全に解放されて前へに進むことが出来るだろう。
アイツには全く届かなったが……僕なりに必死に努力を積み重ねてきた。
だからギフトさえ貰えれば、必ず越える事ができるだろう。
アイツの結果を聞いた日からずっと、ずっと、ずっと選定の儀を待っていた。
ついに、明日だと考えると色んな感じが込み上げてきて興奮が止まらない。
今夜はなかなか寝つけないだろうが、それも良いのかもしれないと思っている。
それに夕食の席で母様が話していたことを思い出すと思わず笑みがこぼれてしまう。
もし僕が強いギフトを授かれれば、数ヶ月以内にアイツに決闘を申し込んで、皆の前で圧倒的に勝つことが出来るだろうと。
どんなギフトでもアイツはカース持ちで才能値が『オール・ワン』だから半年、遅くても一年以内には越えることが確実にできると母様から言われたのだ。
今まで苦痛に感じていた努力が、前とは違って楽しくなるだろう。
決闘に勝てば少なくとも屋敷内では、僕が次期当主として扱われることになる。
そうなれば、どれだけ楽しい生活が待っているのだろうか? 未来の僕の姿を想像するだけでもとても幸せな気持ちになれる。
ああ、早く明日にならないかな。
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