第47話 ウルフリーダー

 ゴーレムのボス部屋と同じで触れてから30秒経つと、目の前の大きな扉は音を立てずに無音でゆっくりと開いた。

 扉が閉まる前にボス部屋へと入り、辺りを見渡してみる。〈紛れ込む小鬼ダンジョン〉に来てからはずっと草原エリアが続いていたのでボス部屋もそうかと思ったが違った。


 俺の目の前には、ゴーレムを周回する時に何度も見た光景が広がっていた。

 もしかしたらダンジョンのボス部屋は全て同じ造りをしているかもしれない。



 予想が外れて少し驚いたが、意識切り替えてウルフ達の近くまで近づく。

 一応警戒はしていたが、やはりダンジョンのボス部屋は一定の範囲内に入らなければ、敵として認識される事はなかった。



 本当に不思議だ。



 俺から15メートルほどのところでウルフ達が座っていたり、歩いていたりしている。

 その瞳には俺が映っているはずなのに……俺の存在が全く認識されない。

 まあ、ダンジョンだから深く考えても意味がないだろう。


 よし! そろそろ戦闘モードに切り替えてウルフ達を観察する。

 ウルフリーダーの見た目は、ほとんどウルフと変わらない。ウルフよりも1.5倍くらい体が大きくて、攻撃の際に使われる武器の牙と爪も、その見た目から強化されていることが把握できる。



「《鑑定》」


 ――――――――――――――――――――


【名前】ウルフ

【レベル】50

【HP】1570/1570

【MP】367/367

 


【攻撃】1113

【防御】636

【敏捷】1372(+100)

【魔攻】318

【魔防】318


 <パッシブスキル>

【敏捷アップ(D)5】


 ――――――――――――――――――――


【名前】ウルフリーダー

【レベル】50

【HP】2355/ 2355

【MP】550/550

 


【攻撃】1730(+60)

【防御】954

【敏捷】2008(+100)

【魔攻】477

【魔防】477


 <パッシブスキル>

【敏捷アップ(D)5】【攻撃アップ(D)3】


 ――――――――――――――――――――



 なるほどレベルは50で統一され、ウルフについては特に変わらないな。ウルフリーダーの方は、ステータスが全て1.5倍に強化されていて【攻撃アップ(D)】スキル持ちか。

 スキル二つ持ちの魔物は初めてだな、流石は上位種か。俺が未所持のパッシブスキルを持っているのは嬉しいけど、それ以上に魔防まで1.5倍にされたかと思った。


 スライムの上位種ビックスライムは敏捷に関しては強化されていなかった。

 だからウルフの低かった魔攻と魔防は強化されず、他の三つが強化されるのでは? と予想していたが外れてしまったか。


 ウルフの魔防に関しては俺の魔攻と同じくらいだから問題はないけれど、ウルフリーダーの魔防は俺の魔攻の1.5倍ほどある。


 魔力消費について無視すれば問題ないが、周回することも考えると、ウルフを無力化する重力魔法は妨害程度の力しか発揮できないかもしれないな。

 まずは一度戦ってみて、ヤバそうだったら魔力消費は考えずに倒せば良いだろう。



 よし! ウルフ狩りの時間だ。



 短剣を構えながらゆっくりとウルフ達に近づいていく。敵と認識される範囲内に入った瞬間からウルフ達は戦闘態勢に入り、ウルフリーダーを先頭にグルルーと威嚇し始めた。



 更に数歩近づいたところで――



「ウオォォーーーーーン!!」



 先頭のウルフリーダーが遠吠えのような大きな声を出した。それを合図にウルフリーダー以外のウルフ達が一斉に動き始めた。

 あの大きな遠吠えはウルフ達への攻撃開始の指示だったのか。集団戦闘に優れたウルフ達は連携の取れた動きで俺を取り囲んだ。


 俺を中心にしてウルフ達は、一定の間隔を保ったままグルグルと円を描くように走り出した。

 それから数分が経った時に俺の左右にいたウルフが一気に近づいて来たと思ったら、素早く元の位置に戻り――俺の前後にいたウルフが攻撃を仕掛けてきた。



 それに対して俺は――



「《重力非対称》」



 飛び掛かってきたウルフ二匹に対して、重力魔法を掛けてから攻撃を回避する。

 ウルフ二匹は攻撃を避けられた後、着地してから再び攻撃しようとしたのか?

 それともグルグルと周囲を回る残りのウルフの元へと一時退却しようと思ったのか?

 態勢を立て直しながら方向転換をしようとしたウルフ二匹は――転んだ。


 ウルフ二匹は必死に起き上がろうとするが、プルプルと生まれたての子鹿のような状態で全く立つことができない。



 俺が使った新しい重力魔法――重力非対称の効果は簡単にいえば左右の重さを変える。


 今回の場合だとウルフ二匹の左半身を重力ゼロにして軽くし、右半身は逆に重力を増やして重くした。

 そうなると、今までの様に力を入れて身体を動かそうとしても、突然の重量変化に加えて左右の重さの違いに脳が混乱してしまい、上手く体を動かすことが出来ずにバランスを崩すことになり転んだ。


 起き上がろうとした時も、いつもの様に動こうとしても左右の重さが違うので、上手く立つことが出来なくなった。

 更に混乱し始め、立てない苛立ちから足にいつも以上の力を入れてしまいプルプルと生まれたての子鹿のように震え、ますます立てなくなる。


 混乱が落ち着いて慣れてくれば、普通に動けるようになるだろうが……残念ながら戦闘中にはそんな時間はない。混乱中のウルフ二匹の頭に至近距離から土魔法――岩弾を数発ずつ素早く撃ち込み討伐した。



 ウルフリーダーは仲間が二匹やられた後も最初の位置から全く動かないで、こちらを観察しているようだ。

 俺の周囲をグルグルと動き回っているウルフ三匹は仲間がやられてから警戒しているようで、攻撃を仕掛けて来ようとはしない。


 こちらからは攻める気はなかったので、そんな時間がしばらく続いた。



「ウオォーーン! ウオォーン!!」



 そんな膠着状態が動き出したのは戦闘開始時と同じで、ウルフリーダーによる二度目のウルフ達への攻撃指示だった。


 群れのボスに指示を出されたことで、覚悟を決めたウルフ三匹が三方向から俺に向かって同時攻撃を仕掛けてきた。



「《重力非対称》」



「「「ギャッアアン」」」



「《岩槍ロックランス》――《岩槍ロックランス》」


 ウルフ三匹が飛び掛かってきたタイミングに合わせて俺は真上に飛び、さっきと同じ様に重力非対称を使ってウルフの機動力を無力化した。ウルフリーダーが指示を出した時に来る! と思った俺は自身に軽くする重力魔法を掛けていた。


 ウルフの攻撃にタイミングを合わせて真上に飛びながら、重力非対称を使うことでウルフ三匹の動きに制限を掛けた。

 同時に飛び掛ってきたウルフ三匹はお互いに避けることが出来ずに、さっきまで俺が立っていた位置でぶつかり合った。


 空中でその様子を見ながら、ウルフの頭が重なった時に土魔法――岩槍を使って二匹を仕留めてた。仕留め切れなかった一匹にもう一発岩槍を撃ち込み討伐する。

 二発目の岩槍は使わずに、地面に着地してから至近距離での岩弾を使った方が魔力消費は節約できたが……ウルフリーダーがすぐに動き出すことを警戒して使う事にした。



 やっと、動き出したか。



 戦闘開始時の位置から動かなかったウルフリーダーがこちらにググルーと威嚇しながらゆっくりと近づき、ある程度の距離まで来ると一気にスピードを上げてから鋭い爪による強烈な攻撃を俺に向かって繰り出した。



「んッッ!? あぶなッ! 《重力非対称》」


 突然の加速に対応が遅れた俺は、ウルフリーダーに攻撃をされる前に重力非対称を使うことが出来なかった。


 ウルフと同じように、姿勢が崩れやすくなるタイミングとかを狙って使うつもりが……逆に一瞬で0から100に加速したような緩急に驚いて対応が遅れてしまい、攻撃を受け流すのもギリギリになってしまった。


 その後は俺が防戦一方の状況が続いたが、二度目の攻撃からは重力非対称が効いてウルフリーダーの動きが鈍くなったことで、少しずつ俺のペースを取り戻した。

 ウルフなら重力非対称だけで動きを無力化できたが魔防の差なのか? 動きが鈍くなるだけで普通のウルフくらいは動けている。

 ただ最初の動きは封じることができ、これ以上魔力を使って重力非対称の効果を強める必要は無さそうだ。


 俺のペースになってからは短剣で攻撃を受け流すことは変わらないが、隙を見て頭や目などの急所に岩弾を撃ち込みながら、少しずつ体力を削り討伐した。



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