第19話 選定の儀
「――ということなんだ」
「教会と神官にそんな歴史があったとは……選定の儀で使用される〈選定プレート〉がダンジョン産だったこと、選ばれた者がそれに触れたことで人類初の固有スキルを授かり――『原初の神官』となって教会を設立したことのどれも驚きの連続でした」
「私も聞いた時は驚いたよ。今では、誰もが10歳になれば選定の儀を行い――ステータスを解放し、固有スキルを授かることが当たり前だが、当時の人達はそれが出来ずに魔物の脅威に日々怯え、隠れて生活していた。今の生活が私達にあるのは〈選定プレート〉を見つけた冒険者と『原初の神官』のお陰だ」
「その通りですね。選定の儀を受けられるのは二人のお陰なので、二人に感謝しながら選定の儀を受けたいと思います」
「良い心掛けだな。私もシオンも、グランが幸運を授かる事を祈っている」
「グランちゃん……私は教会には行かないけど、ここで祈って帰りを待ってるわね」
「父上、母上ありがとうございます」
教会と神官の歴史は驚きだった。個人的に一番驚いたのは、固有スキル【神の代行者】の特殊な能力だった。
〈選定プレート〉を唯一使用できる者で、選定の儀を行うことで人々に力を与える――まさに【神の代行者】と呼ぶに相応しい能力だったので、ある程度は予想できた。
予想外だったのは、神官とその家族が全てのダメージが無効化されて、寿命以外で亡くならないこと。
これがある事で神官の家族と生活は守られ何の心配もなく生活が送れる。
そして神官を保護する能力だけではなく、悪事を働いた場合は警告があり、無視した場合は神罰で【神の代行者】没収とペナルティーがあることだ。
これによって私利私欲の為に神の名を語り都合が良い宗教を広めるなど、人類が混乱しそうなことを事前に防いでること。
転生する時に会った神様が【神の代行者】を作ったのかな? と一瞬疑問に感じた。
俺が転生した世界では、教会絡みの被害を受ける事はなさそうなので優秀な神様に感謝しなればなと思った。
「そろそろだな。グラン行くぞ」
「はい。母上行ってきますね」
「二人とも行ってらっしゃい」
レイブン家の屋敷から馬車で30分ほど掛けて、教会前の広場に到着した。
教会の見た目は白くて大きな建物で、特別豪華というわけでない。
そんな教会の入り口へと、馬車から降りて父上と二人で徒歩で向かう。
「侯爵様、グラン様――本日はようこそお越し下さいました。神官見習いの私が神官の元まで案内させて頂きますので、後に付いて来て下さい」
「ああ、よろしく頼む」
「宜しくお願いします」
教会の入り口で神官見習いが、俺達が来るのを待っていてくれた。
神官の元まで案内してくれるので、父上と一緒に後を追う。
教会の中に入るとまず目に付くのは、入り口から真っ直ぐに敷かれた赤い絨毯の道だった。その先には、白い祭服に身を包んだ一人の神官らしき人物が立っているので、彼が俺の選定の儀を行うのだろう。
教会の内装は赤い絨毯で作られた道の左右には、五人ほど座れそうなベンチ型の木製椅子がいくつも並んでいる。壁や天井などは白で統一されていた。
絨毯の道を進み神官の前まで案内され、俺と神官は軽く自己紹介をした。
「では今から選定の儀を行いますね。それではグラン様は私の前まで来て下さい」
言われた通りに神官の前まで行くと〈選定プレート〉らしき板が置かれていた。
「こちらの〈選定プレート〉にどちらの手でも構いませんので置いて下さい」
「わかりました」
「選定の儀を行います。『我は神の代行者を任されし者、我の前に立つグラン・レイブンの力を解放し、神の祝福をお授け下さい』」
神官も〈選定プレート〉に手を置き祈り始めた。すると〈選定プレート〉は強く光だして俺と神官を包み込んだ。
光が収まると〈選定プレート〉に文字が浮かび上がり、俺の名前であるグラン・レイブンの下に固有スキル【足手纏い】(あしでまとい)と書かれていた。
そして、神官はやや戸惑いながら告げた。
「グラン・レイブン様は……神様から固有スキル【足手纏い】を授かりました」
「「ッッッ!?」」
それから10秒程の沈黙が訪れた後、慌てて父上が〈選定プレート〉の前まで来て、穴があくほどそこに書かれた文字を見ていた。
「固有スキル【足手纏い】だと? このふざけた名前は……まさかカースなのか? いや……あり得ん!! グロース帝国建国以来、レイブン家からカース持ちが出たことはない」
父上が〈選定プレート〉を見ながら独り言を言い始め、神官が心配そうに見守る。
「こ、侯爵様……名前だけではカースだとは判断できませんよ。グラン様のレベルを上げ、才能値を確かめて見てはどうですか?」
「ああ、そうだな。取り乱してしまい済まなかったな。どちらにせよ、選定の儀を行なってくれて感謝する」
「本日はありがとうございました」
父上が神官に戸惑いながらも御礼を言い、教会の出口へと向かったので、俺も御礼を言い後を追いかける。
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