第18話 教会と神官
「ッッ!?」
「驚いたか! 私も父から選定の儀の朝に受け取った時は驚いたよ」
「私の時は説明されてから受け取ったから驚かなかったわよ。普通に渡せばいいのに? て私は思ったけど、ラクサスが『自分と同じ様に驚かせたい』て言うから黙ってたのよ……ごめんねグラン」
「母上大丈夫ですよ。確かに驚きましたが、それよりも〈スキル玉〉で何のスキルが取得できたか? 凄く気になってますね」
「それは【HPアップ】スキルだな。もう一つの方は【MPアップ】スキルだ。どちらも分類としてはパッシブスキルとなる。帝国貴族の伝統でな、選定の儀の朝に誕生日プレゼントとして二つの〈スキル玉〉を息子、娘に贈るのだよ」
「なるほど……もう一つの〈スキル玉〉も取得しますね。父上、パッシブスキルと二つのスキルについても教えて下さい」
「パッシブスキルというのは、任意で発動するスキルと違って、常時発動するスキルだ。【HPアップ】スキルは名の通りで、最大HPをスキルレベルに応じて増加させる」
「現時点で分かっているのが、HPが減れば減るほどスキルレベルが上がるということだ。つまりは生涯無傷で人生を終えれば、スキルレベルは1のままだ」
「【MPアップ】スキルは、最大MPをスキルレベルに応じて増加させる。スキルレベルは魔力消費量に関係しているらしく魔力を使えば使うほど高くなる」
「ありがとうございます。パッシブスキルと二つのスキルについて良くわかりました。最後にもう一つ教えて欲しいですのが、ダンジョン産のアイテムについて知りたいです」
「名前の通りダンジョンから取れるアイテムのことをダンジョン産という。先程、渡した二つの〈スキル玉〉は入手難易度がそこまで高くはない。だから平民でも頑張れば手に入れることも可能だ。逆に入手難易度の高いアイテムは貴族でも簡単には手が出せない」
「もしも〈固有スキル玉〉が販売されれば、レイブン家でさえ頭を悩ませるほどに高価で珍しいのだよ。ほとんどの場合は入手した者が自身に使用するからな」
「ダンジョン産の〈スキル玉〉で一番注目すべきなのはダンジョンスキルだ」
「ダンジョンスキル? 」
「例えば【剣術】スキルを既に取得している者が、ダンジョン産の〈剣術スキル玉〉を使用したとする。その場合だと努力で取得した【剣術】スキルと〈剣術スキル玉〉で新たに取得した【剣術】スキルのどちらの力も得ることができるだ」
「つまり、本来の【剣術】スキルよりも強くなるということだ。更にどちらも【剣術】スキルなので、同時に二つのスキルを育てられる利点もあるのだよ」
「なるほど……自分の戦闘に合ったスキルはどちらも取得したいですね」
「ダンジョン産アイテムといえば、これから向かう教会の始まりとも深く関係している。一人の冒険者がダンジョンで偶然に見つけた〈選定プレート〉から始まったのだよ」
「〈選定プレート〉……もしかして選定の儀で使われるのですか?」
「そうだ。教会の始まりは――」
教会が設立される前の世界では、魔物の脅威に人々は怯えてた日々を過ごしていた。
当時の冒険者のレベルはゴブリン、スライム、ホーンラビットなどの最下級魔物を討伐することは出来るが、それ以上になると死亡率が跳ね上がった。
とある冒険者の一人がいつもの様に魔物の肉を求めて狩をしていたら、運悪く当時の冒険者では勝てるはずのない魔物と遭遇してしまった。冒険者は必死に逃げて! 逃げて! 逃げて! 気づいた時には、全く知らない洞窟の中に居た。
そこは本来なら辿り着くはずのなかった――ダンジョンだった。
なぜならば、そのダンジョンに辿り着くには勝てるはずのない魔物がいる縄張りを通る必要があった。
突然の遭遇に混乱した冒険者は自分が住む村の方向に逃げたつもりが反対方向へと必死に逃げていたのだ。
本来であれば最下位級魔物しか居ない安全なエリアへ向かい、村人達が協力して作った避難場所がいくつか用意されているので、勝てない魔物に遭遇した場合は、そこへと逃げ込む事になっていた。
もし村に魔物が近づいても見張り台の上にいる見張り役が鐘を鳴らせば、村人全員は一番近くにある避難場へと行き、魔物がいなくなるまでじっとしている事になっていた。
しかし、ダンジョンへと来てしまった。
洞窟の中をある程度進んだところで冒険者は冷静さを少しずつ取り戻し、辺りを見渡し安全を確認した。
それから魔物に遭遇してからの自分の事をゆっくりと思い出した。村とは反対方向の本来なら危険な魔物の縄張りだからと、近づかないエリアに来てしまい、たまたま見つけた洞窟へと逃げ込んだのだと分かった。
考えた結果、もう少し時間が経ったら必死に村の方へ走り一番近い避難場に行こう。
時間を潰す間に洞窟の中を探検していると新たな入り口を見つけ、中を少し覗くとそこにはスライスがいた。
冒険者が居た場所はダンジョンの入り口と一階層の入り口の間だった。一階層に入らなければ、魔物は現れないので運良く安全なエリアに居たのだった。
冒険者はスライムなら勝てるが……と思ったが、今は狩りで無駄な体力を使うことは出来ないと考えて引き返そうとした。
その時に〈選定プレート〉を見つけた。
〈選定プレート〉を入手できないダンジョンもあるが、できる場合は必ず一階層の入り口近くに置かれている。
なぜ置かれてるのか? 誰も知りえないが、多くの者は『ダンジョンを攻略する為に、選定プレートを使えと』神様からのメッセージであり、希望だと考えた。
そんな〈選定プレート〉を見つけた冒険者は強い何かを感じて荷物になるはずの、これを村に持ち帰らなければと強く思った。
それからは魔物への恐怖よりも〈選定プレート〉を村に早く持ち帰らなければ、という思いが強くなり〈選定プレート〉を大切に抱えながら疲れも忘れて村へと走った。
冒険者は運良く魔物に遭遇せず、無事に村へと辿り着いた。村人達に本日の成果として〈選定プレート〉を見せたのだが……魔物の肉ではなかった為に、あまり興味を持たれなかった。
そんな中、村で一番心優しいとされる青年が冒険者へと近づき『その板から特別な何かを感じるんだ。触ってもいいかな?』と確認を取り触れた瞬間――〈選定プレート〉と村で一番心優しい彼が光に包まれた。
それが人類初の固有スキル取得の瞬間であり、神官の誕生だった。
その出来事から数年後、その村は集団の規模が村から街へと大きな発展を遂げた。
〈選定プレート〉を見つけた冒険者は街の代表者となった。〈選定プレート〉に選ばれた心優しい青年は『原初の神官』と呼ばれ、冒険者と一緒に教会を設立したのだった。
教会とは、ダンジョンで入手した〈選定プレート〉を設置した建物の事である。
神官とは、〈選定プレート〉を扱うことが出来る者のだけがなれ【神の代行者】という特別な固有スキルを持つ。
一定規模の集団の中から選定の儀によって一世代一人のみが選ばれる。
選ばれた者は固有スキル【神の代行者見習い】を取得し、20歳までは見習い期間のため所属する教会で神官の補佐をする事となる。20歳の誕生日に固有スキル名が【神の代行者見習い】→【神の代行者】となる。
また【神の代行者見習い】は本人が望まなければ破棄する事も可能で、破棄した場合は二度となる事が出来ない。
【神の代行者見習い】を破棄するとランダムで別の固有スキルを授かる。
【神の代行者見習い】が居なくなると、集団の中から新たに一人選ばれる。
――――――――――――――――――――
【神の代行者・見習い】の権利
1、自身が受ける全てのダメージが無効化され、寿命以外で亡くなる事はない。
2、妻と子供に限り【神の代行者の加護】の固有スキルを与えることができる。
加護を与えることで他の固有スキルが封印される。その代わりに神官と同じ自身が受ける全てのダメージが無効化され、寿命以外では亡くならない効果が得られる。
3、教会を経営、管理することができる。〈選定プレート〉を使い、成人を迎えた人々に選定の儀を行う事でステータスを解放することができる。
4、その地域を治める者から一定額の給料と運営資金を受け取る事ができる。
【神の代行者】義務と罰則
1、教会を運営すること。
2、教会の運営資金を使い、孤児院を管理すること。
3、所属する地域の住人もしくは、何処にも所属してない者が、選定の儀を求めた場合は必ず応じなければならない。
4、悪事を働いてはならない。
5、違反した場合は神の警告によって体調不良となり、ステータスプレートに警告が表示される。一定数の警告を無視した場合は神罰により固有スキル【神の代行者】は消滅し、代わりにカースを授かることになる。
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