第25話 準備

 選定の儀の翌日、まだ俺がカース持ちだと知らない人が多いのか?


 思っていたよりも普通に過ごせている。


 先程、朝食を母上と一緒に済ませて、今は自分の部屋へと戻ってきたところだ。


 昨夜、ステータス画面をゆっくりと見ていたら驚愕の事実が判明した。すぐにでも検証をしたいのだがやる事がある。

 カース持ちになったことで、今日から自由行動が取れる。ただ噂が広まれば嫌な目線を多く感じことになるだろう。

 だから魔物をすぐにでも、狩りたい気持ちをグッと我慢して変装の準備をする。


 今日は、変装に必要な物と狩りに必要そうな物を領都内で買い集める事にした。

 まずは着替えからだ。今の服装のままで領都内をウロウロしていたらグラン・レイブンとまでは分からなくても、貴族の子息が買い物をしていたとバレてしまう。


 なので去年、剣術の稽古で使っていたボロボロになった服を少し小さいが着る。

 それから髪の毛をボサボサにしてから少し水で濡らす。俺の髪の毛は銀髪だが、濡らす事によって暗い銀髪になる。

 最後に頭からボロ布を被り、顔があまり見えないようにして――不審者少年の完成だ。



 準備ができたので以前、魔法の練習とかをしていた場所からこっそりと抜け道を使い屋敷の外へと出た。

 屋敷を出てからまず向かったのは庶民向けの服屋だ。数件目でやっと俺のお目当の物を見つけることができた。



 それは黒のフード付き外套だ。



 フードが付いてない外套や、大人向けの外套はちょこちょこと見つける事はあったが、俺のサイズに合うのはこの店が初めてだ。



「すいません、これ下さい」



「ッ!?……アンタ、お金はあるのかい?」



 服屋のおばちゃんが驚くのも、無理はないよな〜見た目が不審者少年だし。



「ありますよ〜銀貨八枚ですよね?」



「あるならいいんだけど、アンタ随分と変わった服装してるね?」



「はい、銀貨八枚です。これには、ちょっとした事情がありましてね……ハハハ」



「毎度あり。そうかい……なるべく早く普通の格好するんだよ」



「頑張ります」



 グロース帝国の貨幣を日本円で例えるなら銅貨が10円、大銅貨が100円、銀貨が1000円、大銀貨が1万円、金貨が10万円、白金貨が100万円くらいの価値になる。


 銀貨八枚のフード付き外套なので、そこまで悪くない作りをしている。頭に被っていたボロ布を捨てて、買ったばかりのフード付き外套を着て次の目的地へと向かう。


 次に向かったのは武器屋だ。


 今まで使っていた剣だと質が良過ぎるので新しく武器を買う予定だ。



「すいません、初心者用の武器はどの辺に置いてありますか?」



「あっちにあるぞ! 坊主」



「ありがとうございます」



 なるほど……一番安くて銀貨10枚か。

 今見ている武器は剣術で使っていた両手で持つ長剣ではなくて短剣を見ている。


 なぜ短剣を見ているかというと理由は二つある。一つ目は重力魔法との相性が良さそうだから試してみたい。

 二つ目の理由は、もし領都で有名になるような事があっても短剣使いならグラン・レイブンに繋がる可能性が低くなるからだ。


 見ている感じだと、銀貨50枚から金貨1枚くらいの短剣を購入するのが良さそうだ。



「おじさん……オススメの腰巻き鞄とかありますか? どれが良いのか分からなくて」



「あいよ。ちょっと待ってろ坊主」



 武器屋のおじさんが探してる間に、他の商品を見ていると気になる物を見つけた。



「良さそうなのを三つ持ってきてやったぞ! 好きなの選びな」



「おじさんありがと。待ってる間に他の商品見ていたら、これも気になったんだけど……何ですか? これ?」



「それはな、臭いもしくは毒対策の為に作られた布マスクだ」



「なるほど、じゃあ黒い布マスク二枚と腰巻き鞄はこれにしますね」



「初心者が布マスク……しかも二枚か。坊主は変わってんな〜初心者は買わねーぞ」



「はは、俺は臭いに敏感なんですよ。それと初心者コーナーの短剣は一通り見たんですが、他のも見てみたいです」



「短剣ならあっちにもあるぞ」



「見てきますね」


 初心者コーナーと比べて、質の良い武器だし値段も金貨は普通に越えてくるな。


 見ていると気になるのがあった。


 少し錆び付いた黒い短剣だ。他のと比べてもかなり丈夫そうで良さそうなのに?


 なぜか? 値段が銀貨10枚とクソ安い。



「おじさん〜〜何でこれは、こんなに安いんですか? 見た感じ丈夫そうなのに」



「ああ……それか。その短剣はダンジョン産でな〈不破の重短剣〉て名前のかなり変わった短剣なんだよ。切れ味そこそこで壊れないんだがな、大きな問題があるんだよ。ほら!持ってみろ」



「ッッ!? オモッ!」



「だろ? 他の性能はかなり良いんだけどな。普通の短剣の20倍も重いんじゃ! 誰も買わね〜から安いんだよ」



「どんくらい売れてないんですか?」



「嫌なこと聞くね坊主。五年近く売れてないし……倉庫にもう一本あるんだぜ」



「へぇ〜それは大変ですね。もし倉庫のと合わせて、その短剣二本買うと言ったら銀貨15枚でいいですか?」



「ッは? 坊主、正気か? さっき持ってみただろ。普通に考えて使えないと思うが……」



「普通に考えればそうなんですが、俺の固有スキルの能力には、武器の重さを無くすのがあるんですよ。もちろん魔力を消費するデメリットがあるので、使えるかは試してみないと分かりませんが」



「そういう事か! 武器干渉系とは珍しい固有スキルだな。まあ、他に買い手がいないし銀貨15枚でいいぜ」



「おじさん助かるよ。布のマスクと腰巻き鞄も一緒にお会計お願いしますね」



「あいよ! 倉庫からもう一本の短剣持ってくるから、ちょいと待っててくれな」


 まさかダンジョン産の短剣が銀貨15枚で買えるとは思ってなかったな。重力魔法で重さを無くしちゃえば、壊れなくてそこそこの切れ味がある最高の短剣だぜ。

 適当に考えたけど、武器干渉系の固有スキルて設定もなかなかありかもな。



「待たせたな坊主。えっと全部で銀貨45枚だけど金足りるか?」



「大丈夫ですよ。はい、銀貨45枚です」



「毎度あり、また来いよな」


 腰巻き鞄が銀貨20枚、布マスクが二枚で銀貨10枚だった。

 フード付き外套に加えて、布マスクで更に変装ができると思って買ってみたが……意外と高かったな。


 武器屋の後は、回復アイテムのポーションなどを購入して帰宅する。



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