第24話 喜ぶ者達
〜〜sideフリア(義母)〜〜
私フリア・レイブンは先程、夫のラクサスから聞いたことを思い出しながら最高の気分で笑みをこぼす。
私の人生はありえないことに、学園を卒業する年に一度崩壊したわ。
今では名前すら思い出せないけど、婚約者だった男から突然の婚約破棄によって、全てが崩れ去ったわ。
グロース帝国の伯爵家に生まれ、美貌も兼ね備えた――この私が不幸になるなんて……いつ思い出しても腹立たしいわ。
なんで学園を卒業する前に、この私が肩身の狭い思いをしなければならなかったの?
本当にありえないわ!!
学園を卒業してから半年ほどが経ったある日、私は父から呼び出されたわ。
父から『結婚相手が決まった』と聞いた時は素直に喜んだわ。しかも相手は4大侯爵家のレイブン家だったのよ。
そんな私は、父の次の言葉で一気に気分が下がったのよ!! 『お前は第二夫人』この私が二番目の女ですって?
ふざけないでよ!! と内心では思いつつも結婚を受け入れたわ。
第二夫人なのは今でも受け入れる事ができないけれど、侯爵家当主の妻は私にピッタリだから、それを考えれば我慢できたわ。
それからしばらくして、私は少しの不安を抱えながらレイブン家に嫁いだ。
私の夫となったラクサス・レイブンはなかなかの良い男。
問題は近くで幸せオーラ全開でニコニコ笑っている女、第一夫人のシオン・レイブンと大切に抱えられている子供グラン・レイブンの二人だわ。
その二人のせいで、この私が屋敷内で肩身の狭い思いで過ごさないといけないのよ。
当時は、本来なら私がいるべき第一夫人のシオンだけが憎かったわ。家柄が格下ならまだ良かったのに、私と同格の伯爵家出身だもの……せめて家柄だけでも勝っていれば、私の心境も違ったかもしれないわ。
問題が起きたのは、私の息子リック・レイブンの教育が始まってからだわ。
それまでは正直、あの憎き女の息子の存在なんて忘れていたもの。
あの女の息子が、私のリックちゃんよりも優秀みたいな話を屋敷のメイド達が噂し始めたのよ。
その話を耳にする度に、腸が煮え返る思いをしなければならないのよ! もちろん、そんな噂話をしているメイド達を見つけたら思いっきり睨みつけてやってるわ。
そんな私が久々に喜ぶような出来事が今日起こったのよ! 先程の会話を思い出す度に、つい笑顔になってしまうわ。
「選定の儀はどうでした?」
「ああ……実はグランの結果は……良くなかったのだよ」
「あらまー残念ですわね。どのようなギフトを授かったのです?」
「それが、全くの予想外でな……レイブン家初のカース持ちだった。グランは成人したらレイブン家を出ることになるだろう」
ラクサスからあの女の息子がカースを授かったと聞いただけでも大満足なのに、さらに聞いてみたら『オール・ワン』だもの!
早く私のリックちゃんにも教えないと。
〜〜sideリック(義弟)〜〜
僕はレイブン侯爵家の次男リック・レイブンとして生まれた。家柄も良く本来であれば、恵まれた環境で育つはずだった。
僕には義兄と義母がいるが、ほとんど会った事もなければ話した事もない。
母様が二人のことを良く思ってなくて、顔を合わせるのも嫌だそうだ。
初めは特に何も感じなかったが、今では義兄のグランが目障りだ!!
アイツのせいで、この僕が屋敷の中で肩身の狭い思いをしているのだから。
その様に思うのは当然だ!
五歳の時から始まった教育では、常にアイツと比べられている気分になる。それに何度かメイド達が僕とアイツについて話しているのを聞いた事もある。
とても不快だ。
僕の教育が始まってから母様の機嫌も悪くなったりと、存在するだけで害悪だ。
アイツさえ居なければ、この僕が劣等感を感じながら肩身の狭い思いをせずに、本来の恵まれた環境で楽しく生活できるのに。
そんな僕は今日も劣等感を抱えながら一日を過ごし、今は自室で休んでいる。
そんな時に突然、コン! コン! と音が聞こえてきた。
その後、母様がとても気持ちの悪い笑みを浮かべながら部屋へと入ってきた。
「リックちゃ〜ん中に入るわね」
「か、母様? どうしたのですか?」
「今日はね……リックちゃんにとっても、とっても良い話を持ってきたわ」
「良い話ですか……」
「何だと思う?」
「ん〜〜、ごめんなさい。考えてみたけどわかりません」
「まあ、いいわ。あのね……今日はあの女の息子の選定の儀があったのよ! それがね……まさかのね……ふふふ」
「母様? ……なんかいつもと違って……少し気持ち悪いですよ?」
「つい嬉しくてね。だってあの女の息子――カースを授かったのよ。しかもラクサスが言うには、成人したらレイブン家を出て行かないといけないそうよ。ふふふ、本当に可哀相な子ね」
「ッッ!? 本当ですか?」
「本当よ。来年のリックちゃんの選定の儀の結果が問題なければ、次期当主はリックちゃんだわ〜」
「それは来年が楽しみですね!」
母様からの良い知らせのお陰で、今日からはぐっすりと眠れそうだ。
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