第23話 変わった関係

 教会から馬車に乗ってしばらくすると領都門に辿りつき、門の外に出る。

 領都門を出てから30分ほどすると、森が見えてきた。その森の入り口付近で馬車は止まり、ずっと無言だった父上が口を開く。



「着いたか。外に出るぞグラン」



「はい、ここは何処ですか?」



「初心者向け狩り場の一つだ。森の奥に進めば魔物のレベルが上がっていくが、入り口付近の魔物だとレベルが1〜5くらいだから問題なく狩れるだろう」



「わかりました」


 馬車を降りてから10分ほど歩いたところで【気配察知】のスキルが反応した。



 小さな反応が……五つくらいだな。



 それから少しして現れたのは、子供くらいの大きさで肌の色は暗い緑色、鼻や耳が尖っていて、禿げ頭で目つきが悪くとても醜い顔をした魔物――ゴブリンだった。


 その数は五匹。ゴブリンもこちらに気づき、ゆっくりと歩いてくる。



「ゴブリンですか?」



「そうだ。いきなり五匹は厳しいだろうから私が数を減らしてくる」



 父上が剣を抜き、わずか数秒で四匹のゴブリンは首を落とされた。残された一匹のゴブリンは突然、仲間を失ったことで酷く動揺している。その場から一歩も動かなくなり、こちらを怯えた瞳で見ている。



「初めての魔物狩りだからな、一番弱い奴を一匹だけ残しておいた。心の準備ができたら最後の一匹を狩るのだ」



「心の準備は既に出来ているので、すぐに狩ってきますね」


 教会に行く前から魔物狩りをする事は聞いていたので、剣術の稽古をしている時と同じ格好をしている。一つだけ違いがあるとすれば、今日は模擬戦・稽古用の剣でなく初めて使用する実戦用の剣を手にしている。


 まずは、重力負荷を解除した状態で動揺しているゴブリンに近づき――右腕を斬りつけてみる。切断する事は出来なかったが、十分なダメージが与えられてるのがわかる。


 次は【身体強化】スキルを発動して、左腕を斬りつけたら綺麗に切断できた。

 最後は身体強化を維持したまま剣を振り、頭を切り落としてゴブリンを討伐した。


 醜い見た目をしたゴブリンであっても、肉を剣で切り裂いた感覚が手に残り……何とも言えない複雑気持ちになった。


 そんな気持ちに浸っていると、父上が近づいてきて声をかけてきた。



「見事だ! 流石はギルバートに教わっただけはあるな。初めての魔物討伐とは思えぬほど迷いのない良い動きだった」



「ありがとうございます。戦闘事態は対して問題ありませんでしたが、初めて生きた肉を切り裂いた感覚が手に残っていて複雑な気分になりました」



「私もそうだったよ。ゴブリンとはいえ……命を奪っているのだからな。まあ数をこなせば、気にならなくなるさ」



「そうですよね。そういえば、レベルはまだ上がりませんね。あと何匹くらい倒せば上がりますかね?」



「魔物のレベルで変わりはするが……あのゴブリンなら五匹くらいだろうな」



「それならすぐに上がりますね」


 次に現れたのは一匹のゴブリンだったので問題なく頭を切り落とす。それから二匹、一匹と同様に討伐した。



「ゴブリンを五匹倒しましたが……特に何も感じませんね」



「とりあえずステータスプレートを確認してみるといい。上がってなければ、また魔物を探して討伐するだけだ」



「わかりました……ステータス」



 ――――――――――――――――――――


【名前】グラン・レイブン

【種族】人族

【年齢】10

【レベル】1

【HP】260/260(+100)

【MP】2265/2265(+1000)

(【5880/5880(+1000)】)

 


【攻撃】51

【防御】51

【敏捷】51

【魔攻】51

【魔防】51

 


 <固有スキル>

【足手纏い】

(【圧死奪纏】) (【鑑定・偽装】)

 <スキル>

(【重力魔法6】)

【水魔法3】【土魔法5】

【魔力感知5】【魔力操作5】

【魔力制御5】【魔法耐性5】

【気配察知5】【聞き耳3】【忍び足3】

【身体強化5】【体術3】【剣術5】

【加速5】【縮地2】

【受け身3】【受け流し5】【見切り2】

【言語理解8】【速読7】【暗記8】

【算術8】【地理5】

 <パッシブスキル>

【HPアップ(D)1】【MPアップ(D)1】


(【 】) 偽装の効果により本人のみ確認可能

 


 ――――――――――――――――――――



 おお! レベルが上がってる。


 HPとMPの横にある+の数値はおそらく今朝貰った〈スキル玉〉で得たパッシブスキルの効果だろう。



 才能値は『オール・ワン』か。



 [第一の試練]確認後から『オール・ワン』かもな? とは思っていたが……やっぱりそうだったか。

 神様が言ってた『選定の儀後に確認可能な代償がある』とは、才能値が全て1になることで間違いない。


 これで固有スキル【圧死奪纏】を得る為に払った代償が『記憶封印』と全ての才能値が1となる『オール・ワン』だとわかった。


 『記憶封印』に関しては神の試練を乗り越えられれば問題はなくなる。

 『オール・ワン』か〜なかなか厳しい代償だけど、圧死奪纏への期待は高まるな。


 そんな事を考えていると父上が近づいてきたので、考えるのをやめる。



「グラン……そろそろ私にもステータスプレートを見せてくれるか?」



「……はい」


 才能値が『オール・ワン』なので、少し気まずそうに返事をして見せる。

 ステータスプレートは疑問に思われそうなMPの数値や【重力魔法】スキルとかは、既に偽装してあるから問題ないはずだ。



「才能値『オール・ワン』か……本当に残念だが、グランはカース持ちのようだ」



「期待に応えられなくてすいません」


 それからは教会を後にした時以上に、気まずい空気のまま馬車に乗り込み、屋敷へと帰ることになった。

 屋敷に帰ってから一時間ほど経った時に、父上から呼び出され対面のソファーに座る。



「グラン、賢いお前なら分かっているとは思うが……明日からお前は何をしようとも自由となる。成人後は屋敷を出ることになるだろうが、それまでの衣食住については今まで通り保証しよう」


「それと領都門を自由に出入りできる通行手形と少ないが活動資金だ。選択肢は少ないだろうが……屋敷を出るまでに何をするのか、良く考えるように以上だ」



「ありがとうございます」



 父上の見た目は、五歳くらい老けたように見える。期待していた息子がカース持ちだったのだからショックが大きいのだろう。


 そして夕食の席では、母上も少し気まずそうにしながらも優しく話しかけくれた。



 父上はその日から顔を見せなくなった。



 こうして家族の関係は変わったのだった。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る