第54話 決闘
〜〜sideリック(義弟)〜〜
母様と一緒に執務室へと行くと、母様が父様に話したい事があると伝えた。その言葉を聞いた父様がソファーに腰を下ろすと向かい側の席に僕と母様が座るように言う。
「二人してどうしたんだ?」
「私とリックちゃんからラクサスにお願いがあるのよ」
「何のお願いだ?」
「リックちゃんに、シオンの息子と決闘させてあげたいのよ」
「突然、どうしたのだ? 決闘などしなくても結果は既に見えているだろうに……なぜする必要がある?」
「ほらリックちゃん、自分の口からラクサスに説明しなさい」
「父様、僕はずっと前から義兄と比べられていたことに苦しんでいたのです。選定の儀によって義兄を越えられたと分かっていても……どうしても過去を思い出してしまうんです。だから、過去を乗り越える為にも義兄と決闘をしたいんです。父様――お願いします」
「少し考えさせてくれ」
僕が決闘をしたいと頭を下げると、父様は一言だけ返事をして目を閉じた。
それから数分が経ち、父様は目を開けた。
「私が出す二つの条件を飲めるのなら、決闘を許可してやろう。一つ目は圧倒的に有利な状況で命を奪うような攻撃をしないこと。二つ目は決闘の事をシオンには秘密にし、立ち会わせないことだ」
「私はそれでいいわよ。リックちゃんはどうかしら?」
「僕もそれで問題ありません」
父様が出した条件を僕と母様はすぐに飲んで無事に決まった。決闘の日時は僕が希望した来週の7月2日、午前となった。
その日は、タイミングが良いことにアイツの母親が午前中から外出予定だった。
それからあっという間に時間が過ぎて――ついに決闘の日を迎えた。
あれから一人でいろんな事を考えた結果、僕は決闘でアイツを殺すことに決めた。
父様には、凄く怒られるだろうが……僕には必要な事だからしょうがない。
もしかしたら決闘で圧勝ったとしても僕の中に強く、染み付いたアイツへの劣等感が完全には消えないかもしれないからだ。
それならこの世から存在自体を消してしまえば良いだけだ。僕とアイツでは普通に考えて命の価値が違い過ぎる。
アイツが存在することで僕の成長を邪魔する可能性があるのなら、グロース帝国の為にも今日で退場してもらう方が良いだろう。
それにカース持ちで成人後は一人で生きていくことになれば、魔物や悪意を持った何処の誰かも分からないような奴に命を奪われるかもしれない。
そう考えてみれば、神様に選ばれし特別な存在の僕の手によって命を奪われる方がよっぽど幸せで良いだろう。
――義兄は幸せ者だな。
「リックちゃん決闘頑張ってね」
「母様の前で必ず勝ってみせます!」
「良い表情だわ。あら? 先に来てたみたいね……随分と変わったわね」
決闘を行う騎士団の訓練場に着くと、母様が先に来ていたアイツの存在に気づいた。
久々にアイツを見た事で反射的に強い殺気が漏れたが……母様の言う通り、悪い意味で随分と見た目が変わっていた。
あの日から全く髪の手入れをしていないのか? 髪は伸び放題になり、顔の半分程がアイツの銀の前髪で隠れていて、表情が全く見えない。
人は目と鼻が隠れるだけで……ここまでも不気味に見えるとは思わなかった。
僕は何でこんなヤツに対して、劣等感を抱いていたのだろうか?
なんか……馬鹿らしくなってきた。
僕の一撃で早く解放してあげないと。
「リック来たか。準備ができたら騎士団長とグランのところへ行きなさい」
「はい」
決闘は騎士団長が審判役を務めてくれるそうだ。騎士団の訓練場には、騎士団長の他に副団長と部下の騎士が三人。
騎士団以外には、執事長とメイド長が数人ずつ部下をひき連れて来ている。もっと大勢の前で決闘をしたかったから少し残念な気持ちだが、父様が決めた事だから仕方ない。
「騎士団長、お待たせしました」
「リック様おはようございます。準備の方は宜しいですか?」
「僕の方は大丈夫ですよ」
「それでは、リック様はその辺りでグラン様と向かい合って下さい」
僕は騎士団長に言われた辺りに立ち、向かい合っているアイツへと視線を向ける。
アイツは誰も居ないところをただボーッと見ているだけだった。
何を見ていて、何を考えているのか? 全くわからない。見た目だけではなく、行動までも不気味になってしまったらしい。
「これより、レイブン家の長男――グラン・レイブン様と次男――リック・レイブン様の決闘を行います。決闘を行う前に、相手に対して何か言いたい事などはありますか?」
騎士団長の言葉を聞き、僕は口を開く。
「ほとんど話した事はありませんが……義兄様お久しぶりですね。僕は昔からあなたと比べられ、辛い日々を過ごしてきました。
だから、僕の口からも言わせて貰います。
レイブン家次男――リック・レイブンは、長男――グラン・レイブンに対し、決闘を申し込む事を此処に宣言する」
「そうか。決闘に関しては……父上から言われたから受けるよ」
「義兄様は……僕に対して、何か言いたい事とかはないんですか?」
「特にないな。あるとすれば……決闘をさっさと始めて欲しいくらいだ」
相変わらず何もないところを見たまま、感情のない声で返事をしてきた。
その態度に最初はイラッとしたが……良く考えてみれば、あの日からアイツは心が壊れているのかもれない。
「終わりました」
騎士団長の方へと顔を向けてから、話が終わったことを伝えた。
「それでは、グラン様とリック様の決闘を始めましょう。両者構えて――始め!!」
アイツは『両者構えて』と聞いてやっと僕へと視線を向けてきた。
それに対して僕は両手で剣を持ち、顔よりも高い上段の位置で剣を構えた。
騎士団長が大きな声で『始め』の合図を言った瞬間に僕はアイツの背後へと転移した。
転移後は予定通りに全力で【身体強化】スキルを発動し、上段に構えた剣をアイツの首へと右側から左に、斜めに斬り下ろす。
――はずだった。
剣を全力で斬り下ろそうとした瞬間から全身に強い違和感を感じ――気づいた時には、僕が両手に持っていた剣は飛ばされてた。
そして僕は今日初めて、銀髪の長い前髪に隠されていないアイツの二つの黒い瞳と視線が合わさった。
――全く理解できなかった。
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