第16話 初恋

「「「……」」」



 突然の沈黙が数秒ほど続いた。



「おい! シャルどうしたんだ? あ〜なるほどなるほど。まさか……お前もか? ガッハハハハハ」



「失礼しました。では改めてまして第二皇女のシャルロッテ・グロースと申します」



「おいおい、さっきの事をちゃっかり無かったことにするなよな。しかし、今までの顔見せでは冷静沈着に相手の子息に受け答えしていたシャルがね〜〜新しい娘の一面が見れてな、お父さんは嬉しいよ」



「お父様!!」



「そう怒るなよシャル。良かったじゃねーか未来の旦那様候補が見つかってよ」



「お父ッしゃま!!」



「悪かった悪かった。まさか、あのシャルが『お父様』すら、まともに言えなくなるほどに動揺するとはな。で、グラン君もシャルと同じ様に時が止まったみてぇーな顔してたけど二人揃って恋に落ちちゃったのか?」



「え? あ、はい。えっとシャルロッテ皇女殿下と目が合った時は確かに感じる物はありましたが……これが何なのかは、自分でもまだわかりません。

 遅くなってしまいましたが、侯爵家当主ラクサスの息子グラン・レイブンと申します。初めましてシャルロッテ皇女殿下、宜しくお願いします」



「こちらこそ宜しくお願いしますね。グラン様……私も貴方様と同じく、目が合った時に特別な何かを強く感じましたわ」



「シャルロッテ皇女殿下もですか……」



「ええ、私達二人共ね……」



 二度目の沈黙となり、前回と同様に皇帝陛下の言葉によって破られる。



「ラクサス、シオンどうするよ? シャルとグラン君はまた二人だけの世界へと旅立っちまったぞ」



「どうしましょうか。まさか、この様な展開になるとは……」



「グランちゃんとシャルロッテ皇女殿下の初々しい初恋を迎えるとは、私も思いませんでした。本当にどうしましょうかね?」



「ラクサス、二人とも運命感じてるみたいだし婚約させるか?」



「こちらは構いませんが宜しいので?」



「シャルなら第二皇女だし問題ない。まあーあるとすれば妻に黙って決めることだな」



「確かに皇后様が知ったら『私に一言あっても良いのでは?』と怒りそうですね」



「まあ、問題ないだろう。おい! シャルそろそろ戻って来い」



「……お父様?」



「お前達が二人の世界にいる間に決まったぞ――シャルとグラン君の婚約がよ。良かったな〜初恋が叶ってよ。目出度い目出度いて事で二人はシャルの部屋に行ってこい! 此処からは大人の話し合いだ」



「「ッッ?!」」



 俺とシャルロッテ皇女殿下はお互いに目が合った瞬間――特別な何かを感じて、まるで時が止まった世界に二人で居るような不思議な感覚になった。


 彼女の見た目は、母上と同じく綺麗な長い金髪に碧眼だった。同じ碧眼でも正確にいうと母上の方は青緑色で、彼女の方は青色だ。


 彼女はお世辞抜きでも美少女と言えるだろう。しかし、しかしだ!! 彼女は俺と同じくらいの年齢……前世の記憶が……あれ?



 俺は前世で何歳まで生きてたんだ?



 これも『記憶封印』か……。まあ、それについては一回忘れてだ。少なくともこの世界で成人と見なされる15歳以上だった。



 それなのに……。

 5歳くらいの女の子に恋するなんて……。

 


 そこからは何が何だか分からないまま事が進み。気づけばシャルロッテ皇女殿下の部屋で二人っきりとなり、お互いに無言のまま時間だけが過ぎていく……そろそろ俺から何か話さないとな。



「「…………」」



「シャルロッテ皇女殿下は大丈夫ですか? 気づいた時には婚約が決まっていましたが」



「ええ、その件に関しては大丈夫ですが……この様な状態になったことが初めてなので、心の整理がまだ出来ていませんわ。

 一ヶ月ほど前からお姉様と一緒に週に二、三回ほど顔見せをしてきたけれど、こんな事になったのは初めてだわ。他の子息達とお会いした時は何も感じなかったし、普段通りに対応できたのよ」



「自分の場合はシャルロッテ皇女殿下との顔見せが初めてだったので、他とは比べられませんが……目が合った時に、特別な何かを強く感じて何も考えられなくなりました」



「シャルでいいわ」



「……」



「私とグラン様は婚約したでしょ。だからシャルロッテ皇女殿下ではなくてシャルと呼んで欲しいし、貴方のこともグランと呼びたいのよ……良いかしら?」



「良いですよ。では、呼びますねシャル……名前を呼んだだけなのに、何だか凄く恥ずかしいですね」



「私のが恥ずかしいわよ!! グラン……特別な感じがして良いのだけど、心臓の方がバクバクして凄く苦しいわ」



「大丈夫ですか?」



「「ッッあ…………」」


 シャルの『心臓の方がバクバクして凄く苦しいわ』と聞いて、正常な判断能力がなくなった俺は咄嗟にシャルの手を握りながら声を掛けてしまい、また時が止まった様な二人だけの世界へ旅立ってしまった。



「さっきから私達二人して凄く馬鹿よね……まさか私が顔見せした子息達みたいになるとは思わなかったわ。今なら彼らの気持ちが少しは分かったわ」



「本当ですね。まさか初めて会った同年代の女の子に、ここまで心を乱されるとは思いませんでしたよ。でもそれがとても心地が良くもありますね」



「本当そうね……おかしくなりそう」



「そういえば……先程『一ヶ月ほど前からお姉様と一緒に』と言っていましたが、シャルに姉さんが居たんですね」



「その話し方でシャルと呼ばれるのは、凄く違和感があるわよ。少しずつでいいから砕けた話し方にしてくれないかしら? 姉様は一週間前から体調を崩してるのよ。安静にしていれば問題ないと、担当の医師から聞いているから心配しないでね」



「わかったよシャル。こんな感じでいいのかな?シャルの姉さん早く良くなるといいね」



「あ、貴方……随分と切り替え早いわね」



「それは、大変失礼致しました――シャルロッテ皇女殿下」



「グランの馬鹿ッ!!」


 こんな感じでシャルとの距離が近くなり、メイドがシャルの部屋に来るまでの間は二人で楽しく過ごす事ができた。

 メイドに言われて二人で応接室へと戻ったのだが――両親の目線が辛かった。

 その後はすぐに帰宅することになったが、帝都に居る間はほぼ毎日会うことができた。



 そして別れの時――



「グラン、会えなくなるの寂しいわね。毎月手紙送るわね」



「シャルとしばらく会えなくて寂しいけど、必ず約束守って返事の手紙送るね」



「さようならグラン……またね」



「ばいばいシャル」


 シャルとの時間は楽しくてあっという間にレーヴァン領へと帰る日になった。

 次にシャルと会えるのは、俺たちが選定の儀を終えた10歳の春に開かれる貴族の子息、令嬢の顔見せパーティーだ。


 俺とシャルは同じ年だったので、一緒にこのパーティーに参加できる。その時に俺たちの婚約も発表されることになった。


 五年以上も会えなくなるのは正直寂しいけれど、毎月お互いの近況報告などを手紙に書いて連絡を取り合う事になってるので、会えなくてもより仲良くなれたらと思っている。



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