第11話 甘い物

 脳内でスキップしながらスタバに到着。

「ホットのカフェ アメリカーノをショートで。」

「かしこまりました…!」

 レジ担当の女の子は、イケメンな瀬戸さんに目を輝かせながら対応した。

「あ、会計は俺まとめて出すよ。」

「え?でも悪いよ。」

「さっき靴選んでくれたお礼。この間も助けてもらったし。」

 俺の言葉に瀬戸さんは首をかしげた。

「この間…?助けたことあったっけ?」

(あっ!つい女装しているときのことまでポロッと言っちゃった…。)

「あ、あ〜…、記憶違いだった(笑)。でも今日はご馳走させて。」

 焦りつつもなんとか取り繕った。

「そう?じゃあ、お言葉に甘えて。ありがとう。」

 彼女が笑顔をくれる度に俺の心臓は飛び跳ねた。

(やっべー、マジで格好良い…。イケメンの笑顔がこんなに眩しいなんて今まで知らなかったよ…。)

 感情をなるべく表に出さないように押し殺し、自分の分の注文をした。

「The メロン of メロン フラペチーノ一 エクストラホイップ一つお願いします。」

「かしこまりました!こちらトールサイズのみとなっておりますが宜しいですか?」

「はい。」


「石井くんって、可愛いものが好きなの?」

 商品を待っている間に瀬戸さんが耳打ちしてきたので、俺は思わずのけぞった。

「えっ、あ、う、うん!甘いものが好きってのもあるけど…。」

「そっかぁ。」

(耳打ちはヤバいって!!てか何、声までイケメンじゃね?女の子の割にハスキーでは!?)

 もはや不審者に見られてもおかしくないくらい俺は動揺していた。

「カフェ アメリカーノとThe メロン of メロン フラペチーノ一 エクストラホイップのお客様〜!」

「あ、はいぃ!」

 恥ずかしさをかき消すように急いで受け取り、空いている席に座った。

(窓際しか空いてなかったとはいえ隣に座るとか…!緊張する!!)

「私も甘い物好きなんだけど、量をあまり多く食べれなくて。胸やけっていうのかな、途中でキツくなってくるから外でそういうの勿体なくて頼めないんだよね。」

「そうなんだ…。あ!じゃあ俺の一口どう?」

「え?」

「……。」

 なんか今まずいことを言った気がする。でも、言ってしまったからには引き返せない。

「まだ口付けてないからさ、もし良かったら…。」

 彼氏でも親友でもない男にこんな事言われるのは流石に気持ち悪かったか。言ってから後悔していると、瀬戸さんは表情を柔らかくして答えた。

「いいの?」

「よ、良くなかったら提案してないよ。」

「ありがとう。」

 瀬戸さんは嬉しそうにフラペチーノを受け取り、ストローに口を付けた。

「わっ、すごいメロンが押し寄せてくる!」

「押し寄せてくる…?」

「あは、食レポ下手だから気にしないで。でもそれくらいメロンの味がするよ。美味しい!」

 瀬戸さんから返ってきたフラペチーノを一口飲むと、なるほど確かにメロンの香りが口いっぱいに広がった。

「ほんとだ、美味しいね!」

「ふふ。石井くん、幸せそうに飲むね。」

「そうかな?」

「うん。私と同じものを口にしたのに、全然伝わってくる魅力が違う。」

 彼女の”私と同じもの”という言葉で、俺は間接キスであることを思い出した。

「!!ご、ごめん!」

「なんで謝るの?(笑)」

「いや、その…。」

 わざわざ間接キスの話題を持ってくるのはきっと気持ち悪い。瀬戸さんは特に意識していないようだし、ここはサラッと流しておくべきか。

「…美味しそうに飲んで?」

「なにそれ(笑)」

 瀬戸さんは吹き出すように笑った。

(瀬戸さん、よく笑う人なんだなぁ。…笑顔が素敵だ。)

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