第12話 扱いの差

「今日はありがとう。」

「こっ、こちらこそ靴選び手伝ってくれてありがとう!」

「どういたしまして。バスケの試合、頑張ってね。」

「うん…!」

 バス停のあるところまで着くと、瀬戸さんは「帰りこっちだから。」と別れを告げて角を曲がっていった。俺は、彼女の姿が見えなくなるまで見送った。

「…ずっと爽やかだなぁ。」

 瀬戸さんと一緒にいる間、俺は常にときめいていた。彼女が何をするにも「格好良い」、「爽やか」、「素敵だ」と心のなかで褒めちぎった。

(…なんか、女の子を褒める言葉じゃないよなぁ。)

 自分が女の子だったら、そんな言葉で褒められても嬉しくない。女の子ならきっと「可愛い」とか「美人」と言われた方が嬉しいだろう。

(でも瀬戸さんの格好良い所、俺好きだなぁ…。)

 見た目もさることながら、所作が一々スマートで格好良い。相手に不快感を全く与えない言動、見習いたい。知り合ったばかりだと言うのに、俺は瀬戸さんに夢中だった。


***


 翌日、俺はいつものように芽久美を起こしに彼女の家までやってきた。

「おはようございます、おばさん。」

「おはよう、明楽くんいつもありがとねぇ〜。芽久美もいい加減自力で起きてほしいんだけど…。」

「来れる間は俺が起こしますよ。気にしないで下さい。」

 芽久美の家は母子家庭だ。父親がいない分、オバサンが昼夜問わず働いて生計を立てている。

 今日も夜勤終わりでクタクタのところをおして出迎えてくれた。

「おばさんは気にせず休んで下さい。」

「ありがとう。明楽くんみたいな優しい子が居てくれておばさんも芽久美も幸せだわ。」

「大げさですよ(笑)」


 二階に上がり、芽久美の部屋のドアをノックした。

「芽久美、朝。」

 反応が無いのは分かっているが、礼儀として一応この行動を挟むようにしている。今日もいつもと変わらず返事がないので部屋に入った。

「芽久美。起きろ、朝だぞ!」

「うぅ〜ん…。」

 声をかけたくらいでは起きない。次は両頬を軽くつまんで引っ張った。

「あーさー!」

いひぇひぇいてて…。お、おひうおきるー。」

 ようやく目覚めた芽久美は涙目になりながら背伸びをした。

「おはよ〜。」

「おはよ、早く支度しろー。何食べたい?」

「スクランブルエッグ〜。」

「はいはい。」

 芽久美の朝食は俺がほぼ毎日作っている。夜勤明けのおばさんに休んでもらうために、俺から提案したのだ。

 時間があまりないので簡単なもので済ませることが多いが、元々料理は好きなので余裕がある時は凝った料理を作ることもある。

「ねー、スカーフ何処にあるか知らない〜?」

「俺が知るか!脱衣所かどっかじゃね。」

「あ!ホントだ、あった〜!」

「はよ朝飯食えー。」

 いつもの朝、といった感じだ。先日の早起きは何だったんだろう?芽久美が早起きするなんて。というか、早起きできるなんて。

「…なんでこの間早起きできたのにそれが続かないんだ。」

「この間のは…たまたまだよ。」

 芽久美は、うさぎのようにモスモスとトーストをかじりながらむくれた。

「悠長にかじってる場合じゃないぞ、バスがくるまであと5分。」

「えっ!?それを早く言ってよぉ!」

 彼女は慌ててスクランブルエッグを口に頬張り、かじりかけのトーストを咥えて通学鞄を肩にかけた。

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