第22話 ゲームスタート

「先輩、さっきのどういう意味ですか?」

 和花ちゃんが言っていたことが気になり、逸先輩に聞いてみた。しかし先輩は聞こえていないのか、俺の言葉を流した。

「…次の相手チームにはお前と同じくらいのチビ助がいるから注意しろよ。」

「知ってるんですか?」

「…あぁ、よく知ってるよ。」

 次の試合相手は昇竜しょうりゅう高校。バスケが強い学校で有名ではあった。しかしうちの高校は対戦相手の攻略などはせず、あくまで楽しむことをモットーとしているので、対戦相手のことを知っているという先輩の発言に少し驚いた。

「そんな有名な人なんですか?その人。」

「…いいや、俺が個人的に知ってるだけだよ。」

 珍しく険しい顔をしていたので、深く聞くのをやめた。

(その人と喧嘩でもしたのかな。)



 チームの元へ戻る途中、たまたま昇竜高校のユニフォームを着た選手とすれ違った。

「元気そうで何より。」

「……。」

 彼は先輩のことを知っている風だった。先輩はかけられた声を無視し、すたすたと歩いて行ってしまった。

「先輩?」

 普段なら挨拶は自分からするくらいだというのに、一体どうしたのだろう。


「スグルっち、今回はベンチからスタートでよろしく。」

「…うっす。」

 どうも様子がおかしい。逸先輩はオールラウンダーなので、ケガや不調でない限りはスタートメンバーにいつも入っていた。

 先ほどの先輩の発言と言い、今回の試合は一癖ありそうだ。

「アキラたん、相手のチビに注意ね。」

「逸先輩も同じようなこと言ってましたけど、何かあるんですか?」

「うーん…。戦ってみればわかるよ。」

 柊部長まで警戒するということは、よっぽどなのだろう。


 逸先輩の次に背の高い部長がジャンプボールをすることになり、相手チームからは先ほど俺たちとすれ違った選手が。

(チビ助って、この人のことだよな…。俺より小さいかも。)

 部長と対峙すると彼は頭一つ分も背が小さく、とてもじゃないがジャンプボールを任されるような選手には見えなかった。

「お久しぶりです、柊さん。」

「カケったん、相変わらず可愛らしいね。」

「そりゃどうも。なんで逸をベンチにしたの?」

アンタが居ちゃ・・・・・・・本調子出ないっしょ。」


 ホイッスルが鳴らされ、高く投げられたボール。最初のボールを手にしたのは、相手チームだった。


「やっぱダメかぁ~!」

「部長、あの人なんなんですか!?バネでも付いてるんかって程飛んでましたけど!」

「そういう特技の持ち主よ。小回りも利くからボール奪われないように注意して!」


 相手有利からスタートしたゲーム。俺は彼らの恐ろしさをまだまだ知らなかった。

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