第51話 カミングアウト

「…よし!」

 いつも以上にメイクに時間をかけた。なんたって今日は楓ちゃんとデートをするのだから!この日のために服を新調し、ヘアアレンジもあらかじめ服に合わせ決めておいた。

(楓ちゃんにその気はなくても、やっぱり可愛く見られたい!)

 ばっちり決めた格好でルンルン気分に階段を降りた。しかし、その気分は長くは持たなかった。

「またそんな恰好をしているのか!!」

 リビングで新聞を読んでいた親父がドスドスとこちらに歩いてきた。

「いい加減にしろ!恥をかいているのが分からないのか!!」

「親父の方こそいい加減にしろよ!!もう放っといてくれよ!」

「待ちなさい!」

「痛っ。」

 力強く腕を掴まれてしまった。

「男のくせにこんな細い腕、みっともない。ちゃらちゃらと女の格好ばかりしているからこんな腑抜けた体になるんだ!」

「俺がどんな格好をしようと勝手だろ!!」

「明楽!!」

 無理やり掴まれた腕を振りほどき、靴を持って裸足のまま外に飛び出した。


***


 待ち合わせに着くと、既に楓ちゃんが待っていた。

「ごめん!待った?」

「あぁ、明ちゃん。」

 なんだか楓ちゃんも元気がないように見える。

「どうしたの?もしかして体調悪い?」

「ううん、元気だよ。ちょっと考えごとしてただけ。…それより腕、どうしたの?」

 指さされた腕を見ると、さっき掴まれたところが赤く痣になっていた。

(あのクソ親父、痣つけやがったな…!)

「大丈夫?」

「うん、大丈夫!気にしないで。」

 先程のことがフラッシュバックして気持ちが暗くなったが、その気持ちを振りほどいて明るく笑った。

「さ、行こっか!」


「お部屋は205号室になります。ごゆっくり。」

 店員からマイクの入ったカゴを受け取り、指定された部屋に入った。持ち込みOKの店だったので、あらかじめ買っておいたお菓子をテーブルに広げた。

「じゃがりこっていいよね、あの触感が好きでついつい一人で一気に食べきっちゃう。」

「わかる、あのガリボリ感いいよね!私も妹と奪い合いになるよ。」

「和花ちゃんもじゃがりこ好きなんだ。」

「あれ?妹の名前教えたことあったっけ?」

 しまった。つい明楽の記憶で話してしまった。

「えーっと…明楽とワタシ、いとこなんだ。それで話を聞いててー…。」

 苦し紛れに言い訳すると、楓ちゃんは表情が曇った。

(やば、さすがに厳しいウソだったか…?)

 彼女は俯いたまま呟いた。

「そっか、いとこなんだ…。」

「そ、そうなの!似てるでしょ?雰囲気がそっくりだって言われるんだよねぇ~!あはは…。」

 ワタシの必死な誤魔化しを気にする様子はなく、楓ちゃんは俯いたままだった。

「…ど、どう、したの…?」

(もしかして女装がバレてしまったのか?あんなに気合を入れてメイクをしたのになんてこった…。)

「…いとこなら話したりするのかな?恋愛についてとか。」

「…え?」

 想定外の返事過ぎて頭の中は疑問符だらけだった。


「…私ね、失恋しちゃったんだ。」


 突然のカミングアウトでワタシの頭の中は真っ白になった。

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