第48話 腹筋
(昨日はすぐに言えなくてごめんなさい。俺、瀬戸さんが好きなので先輩の気持ちには答えられません。)
何度も頭の中でリハーサルをしながら部室へ向かった。
(瀬戸さんが好きだから先輩の気持ちには答えられません…!よし、これでOK。あとはどもらずにはっきりと…)
部室を開けると、ちょうど逸先輩しか居らず、二人きりのシチュエーションだった。
(いやいきなり!?で、でもいいタイミングだ。よし…)
「あ、あの!」
顔を上げて先輩の方を見ると、彼は着替えの途中で固まったままこちらを見ていた。制服を脱ぎ運動服に袖を通そうとしていたので、鍛えられた腹筋が丸見えになっていた。
「……。」
(…腹筋すげー。)
素晴らしいシックスパックに思わず見とれていると、先輩は運動服を手に持ったままこちらに近づいてきた。
「…触ってもいいけど?」
「えっ!」
ガン見していたのがバレバレだった。
「あっ、いやっ!これは筋肉に憧れる健全な男子高校生の反応で!決してやましい気持ちで見てたわけでは…!!」
「わかってるよw…でもほら、触ってみたくない?」
先輩が色っぽく囁き、俺の手を取った。
(いやいやいやいや!ダメだって!!断るんだろ!?)
もう一人の自分が必死に叫ぶが、腹筋を触りたい自分もいた。
(女装のために筋肉を付け過ぎないようにしているから、シックスパックは経験ないんだよな。…どんな感触なんだろ。)
逆らえずそのまま促されるまま腹筋を触る。引き締まった筋肉は固く、当たり前だが温かかった。手を滑らすと、ぼこぼことした凹凸が指先に伝わってくる。
(おぉ…。)
感動して暫く触っていると、腹筋が汗ばんできた。
「あんまり撫でられるとちょっと…。」
切なげな声でハッと我に返った。
「すすすみません!!」
「別に触るのはいいんだけどね…?」
先輩はなまめかしい表情を浮かべていた。
「あのっ、俺全然腹筋が無いから羨ましくてつい…!」
「ふぅん?」
少し意地悪な表情に分かり、服を持っていない手を俺の腰に回してきた。
「…っ!」
腰から慣れた手つきで上着を手繰り上げ、地肌に触れた。
「…ほんとだ、ふにふに(笑)」
「ぅ…っ。せ、先輩、やめ…!」
逃げようにも部室のドアにもたれかかっている形で立っているのでどうにもできない。先輩は恥ずかしさに悶える俺を楽しんでいるようだった。
「鍛えないとなぁ?」
いつの間にか手は横腹から胸に移動していた。
「だっ、ダメです…。」
「ダメでもやめない。」
先輩の唇がどんどん近づいてくる。ダメなのに、断りたいのに…。少し期待してしまっている自分が居て恥ずかしい。
もう触れてしまいそうな程近づいたとき、不意に外から足音が聞こえてきた。
俺はドアが開く直前に先輩を突き飛ばした。
「やっほーい!今日も部活頑張るぞい☆」
勢いよく開けられたドアの前に居たのは、柊部長だった。
「ぶ、部長…ありがとうございます…。」
「は?何のこと?」
助かった。何かいけない一線を越えてしまうところだった。
「あり、俺もしかして邪魔しちゃったぁ?」
「……。」
不機嫌そうに部室を出ていく逸先輩を見て、部長はてへぺろ、と肩を竦めた。
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