第47話 恋愛マスター
昨日はあれからどうやって帰ったか覚えていない。気が付いたら、次の日の朝になっていた。
(…どうしよう。)
向かい側の壁を見つめたまま思考が停止していた。
「明楽、芽久美ちゃんが迎えに来てるわよ。」
母親がドアの向こうから声をかけてきた。もうそんな時間なのか。
手早く着替えて玄関を出ると、まるで見たことのない生き物を観察するように芽久美が見つめてきた。
「どうしたの?明楽が寝坊するなんて。」
「…うん。」
うまく言えずに俯いていると、視界に芽久美が割り込んできた。
「瀬戸楓との約束キャンセルされたとか?」
「…違う。」
「じゃあどうしたの?」
「…キスされた。」
「ふぁ!?」
「逸先輩に、キスされた。」
「な、なんでそんな事になってるの!?てか、盛岡先輩もゲイなの!?」
「うん…。先輩、俺を好きになってから付き合ってた彼氏と別れたって。」
だから山路さんは最初自分に冷たかったんだと、今更ながら気づいた。
(山路さんが俺の名前知ってたのって、逸先輩が話したからだったんだ…。)
「それで、なんで悩んでるの?」
「だ、だってキスされたんだぞ!?どんな顔して会ったらいいかわかんないじゃん…。」
「私には床ドンしてもへっちゃらな顔してたくせに。」
「うぅ…、悪かったって…。」
「明楽が好きなのは瀬戸楓なんでしょ?だったら先輩にもごめんなさいすればいいだけじゃん。」
「先輩は、俺が瀬戸さんのこと好きなの知ってて告白してきたんだよ。」
「おぉ〜…。押しが強いですな。それなら尚更きっぱり断らないとじゃない?少しでもチャンスがあると思わせたら可愛そうだよ。」
「だよなぁ…。」
断った方がいいのは分かっている。でも、芽久美とは違って断った後の関係に響く可能性がある。そう思うと中々踏み出せない。
「先輩だから断りづらい?」
「そういうんじゃない。芽久美とは付き合いが長いから、断っても別の繋がりがあって今も関係が続いてるだろ?でも、先輩は知り合ったばかりで関係が芽久美と比べたらかなり浅い。だから、断ったらもう仲良くしてくれないんじゃないかって…。」
「もしそうなら、それまでの男だったってことだよ。」
「ゔっ。」
「明楽に恋愛以外を求めてない奴なら、その後無理やり関係を続けようとしたところで上手くいかない。大事なのは、人としての繋がりでしょ?それが出来ない相手ならそれまでの縁だったってこと。」
「…お前、急に恋愛マスターみたいなこと言うな。」
「だてに失恋してませんことよ?」
芽久美はふふん、と鼻で笑って停まったバスに乗り込んだ。
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