第37話 仲直り

 チャイムの主は、芽久美だった。

「ぁ……。」

 モニターをチェックせずに玄関を飛び出したものだから、何の気構えもせずに対面してしまった。

「…思ったより元気そうだね。」

「えっと…、うん……。」

「上がってもいい?」

「えっ!?ご、ごめん!今先客が…。」

「…そっか。」

 気まずい。でもこのまま先延ばしにしていい問題ではない。


「昨日は…ごめん。昨日っていうか、ずっと…、騙してたみたいになって…。」

「うぅん、私の方こそごめんね、気づいてあげられなくて。それに、勇気出して言ってくれたのに、私逃げ出しちゃった…。」

「そんな!…誰だって、あれは逃げたくなる。」

「……。」

 なんて謝ったらいいか分からなかった。どう言っても傷つけてしまうことには変わりない。

「…私ね?ちょっと周りが見えてなかった。」

「というと…?」

「今まで明楽しか見えてなかった。他にもいろんな人が居るのに。」

「…?」

「明楽に頼り過ぎてた。私生活も、恋愛も。明楽が私の全てだと、盲信してた。だから、熱を出すまで明楽を追い詰めてしまった…。ごめんなさい。」

「そ、そんなこと。…俺の方こそ、お前の好意に薄々感じながらそれを見ないふりしてごめん。」

「気づいてたんかい(笑)」

「気づいてたって言っても半信半疑。幼馴染だからこそのノリかな、みたいな。でも、今回のは素直に好意だと受け取るべきだった。」

「安心して!もうあんな事しないから。」

「…え?」

 芽久美の顔を見るが、無理している様子は無かった。むしろこちらを伺うような表情で見ている。

「明楽を試すようなことはしない。意味深な発言もしない。…だから、また幼馴染として仲良くしてくれる?」

「もちろん!」

 また幼なじみとして。芽久美からそれを言ってくれたのが嬉しかった。

「…てか、瀬戸楓の事好きなのにゲイって変じゃない?」

「え?」

「瀬戸楓は、女だよ。私にときめかなかったのって、異性として見てなかったからじゃないの?」

「あぁ…。それなんだけど……。」

「何?」

「…似たような状況に、男同士でなったんだよね。」

「は!?それって、明楽が男に床ドンされたってこと?」

「…壁ドンだけどね。」

「だ、誰よ、壁ドンしたのは。」


「俺だよ。」


「「!!」」

 後ろを振り返ると、いつの間にか逸先輩が立っていた。 

「え、盛岡先輩!?」

「そう。こいつが床ドンしたのになんにも感じなかったって言うから、される側を味わわせた。」

「いや何してくれてんですかっ。先輩のせいで明楽混乱しちゃったじゃない!」

「…すまんかった。」

「いや、混乱っていうか…。」

 正直にときめいたなんて言うのもこの場には適さないだろう。自分のことなのに伝えられないのがもどかしい。

「……。」

「ほら、帰りますよ。明楽はこれでも病人なんですから。」

「お、おう…。じゃあ、また明日な。」

「え、あ……、」

 言いあぐねいているうちに、芽久美は先輩を引っ張って帰っていった。

 きっと困っている俺を見て気を効かせてくれたのだろう。

(あいつ、いつの間にあんなしっかりしたこと出来るようになったんだ。)

 甘えん坊だと思っていたが、芽久美も芽久美でちゃんと大人になっていた。それが嬉しいようで少し寂しかった。

「…なんか、妹が自立した感覚だな。」

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