第36話 お見舞い

「スグルっち〜。君、アキラたんに壁ドンしたんだって?」

「ブハッ」

 休憩中、突然部長に言われて吹き出してしまった。

「な、なんでそれを…っ!?」

「うん、質問する前にまず先輩にスポドリ吹きかけたこと謝ろうか。」

「すんません…。」

 部長はタオルで水気を拭き取りながら続きを話した。

「相談されたのよ、先輩に壁ドンされちゃった、もうどうちよー!?って。」

「キャラ変わってる変わってる。」

(相談するほど嫌だったのか…。)

「お前のせいで目覚めちゃったかもしれんらしいぞ。」

「ブッ」

 予想外の返事に、また部長目掛けて吹き出してしまった。

「…あれ、これ俺罰ゲーム受けてる?」

「そんなん聞いたら誰だって吹き出しますよ!」

 意外過ぎる、楓のことは?目覚めたって、俺の壁ドンに対して…!?

「ドキッとしちゃったんだとよ、幼馴染にはなんとも思わなかったのに。」

「そ、そっか……。」

「チャンス到来だね?」

「まさか過ぎてちょっと頭働かんす…。」



 部活が終わり、着替えた逸は自販機の前で立ち尽くしていた。

(俺にときめいたって、本当に…?)

 お金を入れたまま商品ボタンを押さずにいると、部長がやってきて代わりに押した。

「どーすんの?見舞い、行くの?」

「…行って俺は何すりゃいいっすか。」

「やーん、スグルっちのえっちぃ♡」

「そのナニじゃない!!」

「別に、心配してること伝えたらいいんでない?」

 6月の気温に似つかわしくないお汁粉を逸に手渡し、部長は去っていった。

「……熱い。」


***


 のどが渇いたので麦茶を取りにキッチンに降りると、タイミングよく家のチャイムが鳴った。

「宅急便かな。」

 インターフォンのモニターを見ると、映っていたのは逸先輩だった。

「えっ!」

 慌てて玄関に出ると、先輩が気まずそうに立っていた。

「…ぶちょーから今日休みだって聞いたもんだから。」

「ぁ…。」

 部長は何処まで先輩に話したのだろう?下手に自分から話すと墓穴を掘りそうだ。

「と、とりあえず上がって下さい。」

「…お邪魔します。」


 リビングに通すと、先輩は緊張した面持ちでソファに腰掛けた。

「…昨日は、その、やり過ぎた。びっくりさせてすまんかった。」

「い、いや…鈍感すぎた俺が悪いんですし。」

 気まずい空気が流れ、先輩は居心地悪そうに出された麦茶を口に含んだ。

「なんか悪いな、熱出てしんどい時にこんな事話すもんじゃないよな…。」

「いえ…、もう熱は下がりましたから。」

「…ほんとに?」

 見たこと無い辛そうな表情で、先輩は俺のおでこを触った。

「ほ、本当ですってば。」

 思わず顔が火照ってしまった。

「まだ顔が赤い。」

「だ、だからそれは…っ。」

 どう返事をしていいか悩んでいると、再びインターフォンがチャイムを鳴らした。

「だ、誰かなぁー!?」

 俺は大げさに立ち上がって玄関に走った。

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