第45話 一口ちょうだい

「明楽。」

 制服に着替えて部室を出ようとする後輩を呼び止めた。

「先輩。どうしました?」

「…今からちょっと時間あるか?」

「ありますよ。」

 この後の予定をゲットしたのはいいものの、逸は何をしようか考えていなかった。

「……。」

「先輩?」

「海でも行くか!」

「はぁ!?」

 後輩が驚くのも無理はない。今にも空は雨が降り出しそうだった。

「さすがに今日はやめときません?話があるならスタバにしましょうよ。」

「はは、そうだよな…。」

 後輩は慣れた様子で幼馴染に報告し、こちらに向き直った。

「んじゃ、行きましょうか。」


 店に入ると、自分たちのような学校帰りの学生で溢れかえっていた。

「やっぱスタバは人気ですよねぇ。席ないし、どこか他落ち着ける場所探します?」

「…そうだな。」

 商品を受け取ってすぐに店を出た逸たちは、近くの公園へ行くことにした。学校を出る時すでに怪しい雲行きだったが、公園に着くころにはぽつぽつと降り出した。

「やっぱり降ってきた!」

 二人は慌てて屋根のあるベンチに駆け寄り、ここで時間を過ごすことにした。

「んで、どうしたんですか?改まって。」

「あ、いや…。」

 漠然と後輩の反応を確かめたいと思っていた逸だが、具体的にどうしようなどのプランはなかった。

「一緒に…過ごしたくて。」

「なんですかそれ(笑)」

 本降りになった雨を見つめながら、ドリップコーヒーを啜った。

「先輩は甘いもの苦手なんでしたっけ?」

 クリームがたっぷり乗った新商品のフラペチーノを両手で持ちながら明楽は尋ねた。

(可愛い飲み物が似合うな…。)

「一口くらいならいけるけど、ケーキ一個とか出されたら食べられない。」

「へぇ、瀬戸さんと一緒だ。」

 ズキン、と胸が痛む。

「…あいつとそんな話したのか。」

「あ、はい。前に一緒にスタバ行くことがあって。その時瀬戸さんも似たようなこと言ってました。甘いものは好きだけど、多くは要らないって。」

「……。」

 後輩が楓のことを好きなのは知っている。それなのに話題に出ると心が痛い。

「…一口くれよ。」

「いいですよ、はい。」

 後輩はフラペチーノを差し出してきたが、逸はその手を引っ張った。

「え…?」

 バランスを崩した後輩に逸は口づけた。

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