第39話 マイスイートハニー

 明楽と別れ自分の席に座ると、既に坂本くんが席に座っていた。

「おはよー。」

「おはよう。今日は早いね?」

「うん、早起きできたから。」

「…石井とも仲直り出来たんだ。」

 明確に明楽と揉めたと話していないはずだが、彼は雰囲気で気づいたのだろう。

「…うん。なんか心配かけちゃってごめんね。」

「いや、いいよ。」

 坂本くんとは入学してからずっと隣の席だが、今まであまり話してこなかった。別に苦手意識があったわけではないが、特別話す理由も無かったので挨拶程度の間柄だった。

(…この間はなんであんなに親切にしてくれたんだろう。)

 いくら困っていたとは言え、坂本くんの対応はとても丁寧で優しかった。

「ねぇ、坂本くん。」

「うん?」

「この間は、ありがとう。借りてた服、乾いたから持ってきた。」

「あっ。そ、そうだったね。ありがとう。」

 坂本くんは周りを気にしながら受け取り、直ぐに鞄にしまった。

「風邪ひかなくてよかったよ。」

「うん。坂本くんのお陰。」

 坂本くんは照れくさそうに首を擦り、視線を泳がせた。

「困ったことがあったら何でも言ってよ。俺で良ければ力になるからさ。」

「ありがとう。」

 明楽にばかり甘えていたので分からなかったが、優しいクラスメイトも居たんだな、と心が温かくなった。


***


「おはよ。」

「おい明楽!どういうことだよ!?」

「は?」

 何故か三上が朝から怒っている。

「見ろよ。真司と西原が何故か急接近している!」

 促されるまま見てみると、確かに芽久美が隣の席の坂本と仲良さげに話している。

「どうもこうも、隣の席なんだし話すことくらい普通だろ。」

「お前は何も分かってねーなぁ。西原は今までお前以外の男子に興味なんてさらさら無かったんだぜ?それが昨日から急に仲良くなってんの!!お前何か知らないのか!?」

「知らねーよ…。」

 思い当たる節がないわけでもない。さっき芽久美が”内緒”と言っていた事に何か意味があるのだろう。

「俺は芽久美の幼馴染なだけで、あいつの全てを知ってるわけじゃない。」

「お前でも知らないこととなるといよいよ…。あぁ〜!俺のマイスイートがぁ!!」

 芽久美のことは何でも知っていると思っていた。でも、そうでもないことに気づくと、仕方ないとは言えやっぱり寂しかった。

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