第3話 女装

 俺が女装をするようになったのは、中学2年の頃。芽久美がおふざけで俺にメイクを施し、女性物の服を着せたのがきっかけで目覚めた。

 最初は抵抗していたが、いざ女装をしてみると整形することなく性別を変えられるなんて魔法みたいで楽しかった。

「これ、ほんとに俺?」

「うんうん、やっぱり似合うと思ったんだよね〜♬」

 芽久美は小学校の頃からメイクを始めていたため、中2の当時でも技術はそれなりにあった。

「ねぇ、せっかくだしこのままお出かけしようよ。」

 恥ずかしかったが、思いの外女装と気づかれることなく普通に過ごすことが出来たので、帰る頃にはすっかり緊張は取れていた。

「楽しかったね♬」

「…うん。また着たいかも、女の子の服。」

「ほんと!?じゃあ今度はカツラも用意してくるね!」

 芽久美は人にメイクをすることが楽しかったらしく、ノリノリだった。

「…俺が女装してるの、キモくなかった?」

「全然!むしろ可愛いよ。」

 そう言われて鏡で自分を見た。中性的なショートカット、上げられたまつげ、二重の瞳。確かに男性らしさは抜けて女の子に見える。

 もっと可愛くなりたい、そう思った。

 この日を堺に、俺は芽久美からメイクやファッションを教わり、不足分を独学で補った。そして、今に至る。


「親父は女装の楽しさを全然分かってない。」

『まぁ〜、おじさんからしたら息子が娘になっちゃったみたいで、寂しいんじゃない?』

「そんなんじゃない、世間体を気にしてるだけだ。」

『それもあるかもしれないけどぉ…。』

「お前、親父にも女装メイク施してみない?」

『いやいやいや!おじさんが女装したらそれこそあれよw』

「…はぁ。」

『明楽だからあんなに可愛くなれるってところあるしね〜。』

「俺そんなに可愛い?」

『可愛い♡』

「ありがと。」

 ふと、今日出会ったイケメンを思い出した。

(…あの人の目にも、俺は可愛く写ったかな。)

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