第4話 再会

「会いたかった。」

 瞼を開けると、昨日のイケメンが顔を覗き込んでいた。

「!」

「あの時声をかければ良かったって後悔してたんだ。」

「えっ。」

「また会えて嬉しい。」

 イケメンは更に顔を近づかせ、ワタシ・・・の頬に触れた。

「あっ、あの、ワタシ…。」

 全身から熱が作られている、そう感じる程暑かった。

(顔が赤いの、絶対バレてる…!)

 イケメンは頬に添えていた手でワタシの髪を掻き上げた。

「もう離さない…。」

「…っ!」

 近づく顔、唇―――。


「わぁぁぁぁぁ!!」

 早朝、俺はとんでもない夢を見て飛び起きた。

(や、ヤバいだろ…!!流石にヤバい!!)

 先程見た夢の内容をかき消すようにブンブンと頭を振った。まだ心臓はバクバクいっている。

(相手は男だぞ!?駄目だって、BLには興味ないし…!!)

 罪悪感を感じながら脱衣所へ向かい、顔を洗った。

(ごめん、名前も知らないイケメンよ…。俺ちょっとどうかしてた。)

 パチン、と両頬を叩き気合を入れる。

(よし、俺は男。恋愛対象は、女性。うん、普通だ。至って普通。何処にでもいる男子高校生だ。)

 キッチンを通りがかると、既に母は起きてご飯の支度をしていた。

「おはよう、今日は早いのね。さっき叫んでたけど、悪夢でも見た?」

「おはよう…。まぁ、そんなとこ。」

 じゅうじゅうと食欲をそそる音と共にベーコンのいい香りがしてくる。

「…先食べていい?昨日夕飯食ってないし、腹減った。」

「いいけど、お父さんにはちゃんと謝りなさいよ?」

「やだね、なんで俺が。」

 トーストされていない食パンにジャムを塗って齧っていると、親父が新聞を持ってリビングにやってきた。

「……。」

「……。」

 お互いに気まずくて黙っていると、母が焼けたベーコンと目玉焼きを出してくれた。

「いただきます。」

 親父を無視して手を合わせ、手早く料理を口に入れていく。

「そんなに急がなくても…。」

「今日、日直だから。」

 牛乳で流し込み、急いでその場を去った。

 自室に戻り、制服に着替える。学校指定のワイシャツに生徒手帳をつっこみ、裾がだぶついているスラックスを履いてジャケットを羽織った。

 再び脱衣所へ向かい、歯を磨いて髪にワックスをつけた。前髪をセンターパートに分け、後頭部はクシュッとボリュームを出した。女装時カツラをかぶりやすいというのを理由に襟足は刈り上げている。

「…よし。」

 緩めにネクタイを締め、鞄を手に取った。

「お弁当、忘れてるわよ。」

 振り返ると母が弁当を持って立っていた。

「ありがと。」

「お父さんと喧嘩したまま学校行く気?」

「別にいいだろ、今日に始まったことじゃないし。」

 呆れる母を通り過ぎ玄関に出た。いつもなら芽久美と一緒に通学するのだが、今日は一刻も早く家を出たかったためひとりで学校に向かうことにした。

 ”先に学校行く”とだけ送信し、バスを待った。


 バスに乗り込むと案外人が多く、後ろの方で立つことになった。

(この時間って混むんだな…。)

 ぼうっと前を見ていると、視界の端に見覚えのあるウルフヘアのイケメンが居た。

「!」

 昨日助けてくれたイケメンだった。しかし彼は当然こちらに気づくこともなく、イヤホンで音楽を聴いているようだった。

 何の音楽を聴いているんだろう、などと思っていると、停まったバス停から同じ学校の先輩が乗ってきた。しかし彼は明楽に気づかず近くのイケメンに声をかけた。

「よーっす、かえで。」

「おはよ。」

すぐる先輩、彼とお知り合いなんすか!?)

 意外な接点に驚いていると、先輩がこちらに気が付き手を上げた。

「明楽も乗ってたんか。」

「おはざっす、先輩。」

 なるべく自然体を装って近づくと、”楓”と呼ばれたイケメンはこちらへ会釈した。

「こいつ、いとこの楓。」

「はじめまして、瀬戸楓せとかえでです。よろしく。」

「は、はじめまして…。石井明楽いしいあきらです。」

 今朝見た夢を思い出して顔が熱くなった。

(駄目だ、近距離は危険だ…!!)

「バスケ部の後輩なんだけどさ、中々身長伸びねーんだよなぁ。」

 ポンポンと俺の頭を軽く叩きながら逸先輩は「バスケ上手いのに、勿体ない。」とため息をついた。

「…バスケに身長は関係ないっす。」

「そうだね、身長が低くてもプロになってる人は居るし。」

 彼が同意してくれたことに喜んでいたが、ふと違和感を感じた。

(あれ?なんか瀬戸くんの制服…。)

 違和感の原因を探るように彼の制服をまじまじと見た。

「おい、それセクハラだぞ。」

 先輩の言葉でハッとした。

(スカート!?)

 瀬戸くんは、女子校の制服を着ていた。

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