第19話 大会の朝

 翌日、集合場所に着くと既に逸先輩がベンチに座っていた。

「おはざっす。」

「おー、おはよ。」

「他の皆は?」

「どうせいつもみたいにギリギリに来るだろうよ。毎回真面目に10分前行動してるのは俺とお前だけ。」

 逸先輩はツーブロックにパーマを当てた赤髪、そしてピアスといういかにもな見た目をしているが、根は真面目で遅刻やサボりをしたことは一度もない。

「先輩って、見た目によらずきっちりしてますもんね。」

「まぁな。そう言うお前だって、ピアス開けてる割に真面目ちゃんじゃん?」

 元々上がっている口角をさらにニッと上げて俺の右耳を見た。

「これは先輩が開けたんじゃないですか。」


 バスケ部に入部したての頃、チビで華奢な俺を誰もが戦力外だろうと決めつけて、練習に混ぜてもらえない時があった。

 そんな状態を抜け出したかった俺は唯一話しかけてくれた先輩に、どうしたら舐められないかと聞いたことがあった。

 すると「形から入ってみれば?」と俺の反応を待たずして、持参していたピアッサーで勝手に俺の耳に穴を開けたのだ。


「あの時はマジで焦りましたよ、やべぇ人に話しかけちゃったって。」

「あはは!でも効果はあっただろ?」

「ピアスがって言うより、先輩のそばに居たからってのがでかいと思います。」

 逸先輩は見た目のいかつさもそうだが、バスケの腕前でかなり目立っていた。そんな先輩に気に入られている俺は、必然的に周りから見られることが多くなり、俺のプレイスタイルを見た人から少しずつ評価されるようになった。

「先輩がそばに居てくれたから、今の俺があるんだと思います。」

「明楽…。」

「皆が居ると恥ずかしくて言えないっすけど、いつもありがとうございます。」

「お前…、マジで可愛い奴だな。」

「え?」

 突拍子もない事を言われたので思わず顔を見ると、先輩の顔が赤くなっていた。

「先輩、顔赤いっすよ。」

「うるせぇ!誰だって面と向かってあんな事言われたら赤面するわ!」

「そうかな?」

「お前、ピュアすぎんだろ。」


 そうこうしている内に外の部員がチラホラと集まり始めた。

「よー、エース二人は流石早いな。」

 柊部長が集合時刻5分遅れでやってきた。

「部長が遅いだけでーす。」

 先輩がそう言うと、周りが笑った。

「これだけリラックスしていれば、試合もいい感じだろうな。気楽に頑張ろーぜー!」

「おー!」

 俺たちは円陣を組んだりしない。ラフなハイタッチなどしてゆるく構えている。その方が個々の力が発揮されやすいからだ。

 緊張でガチガチな顧問とは違い、俺たちはバスの中でだべりながらお菓子を食べたりと各々好きなことをして会場までの道のりを過ごした。

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