第20話 お気楽な部長

 大会はリーグ戦だ。2ブロックに分けてブロック別に試合し、各ブロックの1位のチーム同士で決勝戦を行い、各ブロックの2位のチームは3位となる。

 リーグ戦の順位は勝率によって決まり、勝率が同位の場合は同率チームにおける総得点、総失点の差によって勝敗を決める。以上でも決められない場合は、ゴール・アベレージ(総得点/総失点)の率の高い方が勝者となる。


「皆ー、気合い入れて頑張るんだぞー!」

 顧問の谷垣先生は緊張した面持ちで俺たちに声をかけた。

「せんせー、俺ら気合い入れるスタイル合わないんすわ。」

「し、しかし…。」

 谷垣先生は今年初めてバスケ部の顧問になったらしく、以前からの雰囲気を知らないでいた。

「まぁ、上で1年たちと見ててくださいよ。」

 柊部長はのん気にそう言うと、俺たちレギュラーに飴玉を配った。

「えー、なんで黒飴なんだよ。」

「ばあちゃんかっ。」

 選手たちは口々に文句を言ったが、部長は気にせず配り続けた。

「ベンチはべっ甲飴な。応援はのど飴。」

「ぶちょー、飴の種類になんか意味は?」

「のど飴以外は特に意味無し!個人的に好きな飴をあげただけだ。」

「やっぱババアじゃんw」

「コラ!黒飴をバカにすんな!」

 部長の飴効果で、少なからず緊張していた俺たち1年の肩が軽くなった。

(こういうケアが出来るから、柊先輩が部長なんだろうな。)

「お、明楽のバッシュ可愛いじゃん。」

 逸先輩がおニューのバッシュに気づいて声をかけてきた。

「予備のつもりで買ったんですけど、せっかくだし履こうかなって。」

「ふぅん…。いいね、似合うじゃん。」

「先輩もバッシュ新しくしたんですね?」

 先輩が履いていたバッシュは俺と同じasicsで、色は蛍光イエローだった。

「おー、楓が”目立つ靴にしろ”って言うから変えた。俺、十分髪色で目立ってると思うんだけどなぁ。」

 チクリ、と胸が痛んだ。

(…俺だけじゃなくて、先輩にも同じこと言ってたのか。)

 特別だと思っていたピンクのバッシュが、急にくすんで見えた。

「なーに暗い顔してんだ!?」

 バシッと背中を叩かれ顔をあげると、柊部長が大きな口で笑っていた。

「確かに1年でレギュラーなのお前だけだけどさ、それだけ実力があるってことなんだぜ?自身持てよ♬」

「は、はい…。」

(緊張してたわけじゃないけど…、でも部長のお陰で少し元気出たかも?)

「ありがとうございます。」

「おーっし!じゃあ楽しんでこ〜♬」

 部長はスキップでコートに入っていった。

「相手チームを見ろよ、ドン引きしてるぞw」

 逸先輩に言われて見てみると、たしかに相手チームの選手は部長を見て顔を引き攣らせていた。

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