第30話 ニブチン
学校へ向かう間、芽久美は一言も喋らなかった。バスでは瀬戸さんとも先輩とも出会わず、ますます居心地が悪かった。
「よーっす、明楽。」
「おはよ。」
芽久美とはとうとう教室に入るまで一言も会話がなかった。
「なぁ、西原と喧嘩でもした?」
三上は俺にだけ聞こえるように耳打ちした。
「別にしてないけど…。」
「けど?」
「…わらかん、なんか気づいたら黙ってたんだよ。」
「はぁ〜!これだからニブチンは。絶対お前なんかしたんだよ。」
「してねーよ!」
三上は大げさにため息を吐いた。
「何もしてないのに怒るか?西原が怒る直前何したか自分で考えな。」
「ワカンネ。」
「明楽って…、もしかして空気読めない子?恋とかしたら絶対振られるタイプだわー。」
「絶賛片思い中だからそういう縁起でもないこと言うな。」
「だったら分かるだろ!てか誰に片思いしてんの?教えろよー!!」
三上は情報が渋滞しているような口ぶりで俺にまくし立てた。
「…他校の子。でもそれと芽久美が黙ってんのと何が関係するんだよ。」
「鈍いとは思ってたけど、ここまで酷いとちょっと…。」
何故か絶句した様子の三上に、俺はますます理由が分からなかった。
「勿体ぶってないで言えよ、解決しないまま情報増えてくぞ。」
「え、他に何教えてくれんの?」
「いいからまず教えろ!」
「あぁ〜、西原が可哀想!」
***
「はぁ。」
芽久美は自分の席について窓の外を見た。
(…明楽は私とくっついてても、なんとも感じないんだな。)
先程の状況を思い出す。
自分はベッドと明楽で一時的に挟まれていた。言わば床ドン状態だったのだ。
(あんなの、普通だったらときめくよ。好きじゃなくたって少しは意識するはずなのに。)
他に好きな人がいるのは知っている。しかしいくら好きな人がいるからとは言え、密着した異性に対して何も思わないのはおかしい。健全な高校生なら興奮するシチュエーションだ。
(…私、魅力ないのかな。)
幼馴染という関係がこれ程切なくさせるとは。芽久美はため息が止まらなかった。
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