第29話 気まずい

 月曜日、今日は朝から雨が降っていた。

「芽久美っ!おい、おーきーろー!」

「うーん…。」

 天気の悪い日は特に寝起きが悪い。芽久美は寝返りを打って俺に背を向けた。

「あーもー!」

 きりがないので布団を引っ剥がした。

「時間無くなるぞ、早く起きろ!」

「もう少し…むにゃ。」

 まだ夢の中なのか、全く危機感がない。

「はぁ。」

 こういう時は、強硬手段だ。

「おりゃ!必殺、くすぐり攻撃!」

「きゃははははっ!」

 芽久美はくすぐりに弱い。それが例え夢の中だろうが、一発で目が覚める。中学の時はよくこれで起こしていたが、高校生にもなってこの起こし方はどうだろうと思って最近は控えていた。

「ほらほら、さっさと起きないともっとくすぐるぞ!」

「いやーww」

 抵抗する芽久美は、俺の手を掴んだ。

「!」

 右足が痛んだせいで踏ん張りが効かず、バランスを崩して芽久美の上に覆いかぶさるように倒れてしまった。

「痛た…。何するんだよ!」

 両手を使って起き上がると、すぐ目の前に芽久美の顔があった。

「…ごめん。」

 芽久美は驚いた顔で、俺を見上げて謝った。

「全く。いつになったら普通に起きるんだよ。」

「……。」

「早く着替えてこい、朝食の用意もう出来てるから。」 

「はい…。」

 部屋を出ようとしたが、急にしおらしく返事するもんだから振り返った。

「どうした?」

「な、何でもないっ!」

「あっそ。」


 今朝は芽久美の好きなフレンチトーストを作ったのだが、いつもなら喜んで食べるのに今日は勿体ぶるようにちびちびと食べていた。

「食欲無いのか?」

「そ、そういうわけじゃないんだけど…。」

「?」

 芽久美はフォークを咥えたまま上目遣いで俺を見た。

「…なんとも、思わなかった?」

「は?」

「…さっき、私の上に乗っかったでしょ。」

「人聞きの悪い事言うなよ、あれはお前が手を引っ張ったせいで―」

「それでも!状況的にはそうだったでしょ?」

「…まぁ。」

「その、ドキドキとかしなかった…?」

「別に。」

「そっか…。」

 それっきり芽久美は黙ってしまい、俺はなんとも言えない居心地の悪さを感じた。

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