第16話 ゲット

(ど、どうしよう…近くで見られたからバレた…!?)

「あぁ、幼馴染のあかりちゃんです♬」

「へぇ、こんな可愛い幼馴染居たんだ。こんにちは、俺は逸。」

「ど、どうも…はじめまして。」

 名前を変えて紹介しているあたり、芽久美も女装のことは他に知られたくないようだ。先輩にもバレていないようで内心ほっとした。

「あ、もしかして一度会ったことない?」

 瀬戸さんはワタシの顔を覗き込んで笑顔を見せた。

「おいおい、ナンパか?よせよ。」

「そんなんじゃないって。」

「あのっ!こ、この間はヒール、ありがとうございます。」

 なるべく気取られないように声色を変えてお礼を言った。

「やっぱり。足首捻ってたみたいだったけど、大丈夫だった?」

「は、はい!」

(足捻ってた所見てたのか…!心配してくれるなんて優しい!)

「私は楓。よろしくね。」

「よ、よろしくお願いします…!」

「西原さんと知り合いだったんだね。」

「私もあの場・・・に居たよ。」

「そうだったの?ごめん、気づかなかった。」

 悪気などなく、本当にそのままの意味で言ったのだろうが、芽久美はあからさまに臍を曲げた。

「気付かない程影が薄くて悪かったわね。」

「ごめん、そういう意味じゃないよ。」

 瀬戸さんは眉を下げて「西原さんも可愛いよ。」と付け加えた。

「そっ、そんな事言ってるんじゃない!」

 予想外のことを言われて少し頬を染めた芽久美。「可愛い」と言われた彼女が羨ましかった。

「一度しか会ったこと無いのに、あんたは明のこと覚えてたんだ。」

「あー…うん、そうだね。」

 瀬戸さんは少し考えてから肯定し、ワタシの顔を見た。

「やっぱ可愛いからかな?」

(ぐはぁっ)

 反則だ。そんな爽やかな笑顔で言われたら惚れないわけないじゃない…!ワタシは思いっきり心臓を鷲掴みにされた。

「だーかーらっ!お前女相手に媚び売り過ぎだっつーの!」

「えー?本当のこと言ってるだけなんだけどなぁ。」

 女たらし、と先輩に避難される瀬戸さんだが、それさえも爽やかな本音で受け流していた。

(本当のこと…っ!瀬戸さんにはワタシはお世辞抜きで可愛く映ってるってこと…!?)

 だとしたら嬉しすぎる。ニヤける顔をなんとかしようと、フラペチーノを一気に吸い込んだ。

「明ってば、一々言葉信じすぎ。社交辞令に決まってるでしょ。」

「わ、分かってるよ…。」

 そうは言ってもやっぱり嬉しいものは嬉しかった。

(瀬戸さんに可愛いって言ってもらっちゃった…。)

「あ、あの…もしよければLINE交換しませんか…?」

 勇気を振り絞って瀬戸さんに聞いてみた。

「ほーら、本気にしちゃったじゃん。」

 先輩は呆れ顔で言った。

「あ、えっと、私女なんだけど、それでも良いのかな?」

「も、もちろん!…駄目、ですか?」

 ここで断られてもまた男の姿で聞くつもりで居た。ダメ元というやつだ。

「いいよ。私で良ければ。」

「…!ありがとうございます!!」

 こうして瀬戸さんのLINEをゲットすることが出来た。あまりの嬉しさに、心の中でガッツポーズしながらスキップで小躍りした。

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