第14話 先輩と瀬戸さん

「楓の好みのタイプ〜!?」

 逸先輩は俺の質問に心底驚いた様子だった。

「なんだよ、お前楓が好きなんか?」

「えっと…まぁ…、はい。」

「へー…、あんな男女を。」 

 長年の付き合いだからこその言い回しなのだろうが、俺は先輩の”男女”という言葉にムッとした。

「その言い方、失礼じゃないですか。」

「怒るなって。嬉しいぜ?あいつのことを好きになってくれるのは。」

 指の先でバスケットボールをくるくる回しながら、先輩は少し遠い目をした。

「あいつ、女らしい格好が嫌いでさ。小さい時から男みたいな服しか着たがらなくって、髪もずっと短いまんま。七五三のときなんか”着物着たくない”っつって泣きわめいてさ。そんな奴だから恋愛なんてしてこなかったし、告白されるのはいつも女の子から。男と浮いた話なんて微塵も無かった。」

 先輩は回転しているバスケットボールをパシッと止めて続けた。

「俺としてはあいつの兄貴みたいな感覚で心配だったわけよ。だからさ、お前が楓のことを好きになってくれて安心した。あいつにも少なからず女としての魅力があったってわけだ。」

「……。」

「あり?またなんか俺引っかかる言い方した?」

「いや、してない…です。」

 してない、と思う。うまく言えないが、それでも俺は先輩の言い方にモヤモヤしていた。

(瀬戸さんのことを心配にする気持ちはわかる。でも、瀬戸さんが女性らしく振る舞うのが嫌いだって言ってるのに、女としての魅力どうこう言うのは違う気がする…。でも一般的に見たら先輩の言うことも変じゃないというか。でも…。)

 難しい顔を続けていたからか、先輩は苦笑いして俺の頭をポンポンと叩いた。

「とにかく、楓の事を好きになってくれてありがとう。それを言いたかっただけだ。」

「…はい。」

「さ、休憩終わり!ハーフコート始めっぞ。」

 先輩は先に立ち上がって俺に手を貸してくれた。

(…そう言えば好みのタイプ、教えてもらってない。)

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