第45話

 ダンジョンに入ってみて思った。


 ――マジで広すぎでしょ。


 ギルドで渡された地図と合わせて、私の地図情報と照らし合わせていくのだけれど、初期状態では画面に全部入りきらんよ。一応、地図を小さくして見ることができたけどさ。

 環境は定番の洞窟バージョン。迷路のようになっているけれど、単純に攻略を進むんだったら、地図通りに進めば、それが最短ルートになるだろう。

 このフロアの魔物は弱すぎるせいか、見事に私を中心に円形を描くように、外周に沿って点在している。ちょっと、面白過ぎる。


「ん? あれ?」

「何、ミーシャ」


 私の前を歩いていたニコラス兄様が、振り向いた。


「いや、この地図には載ってない場所が、私の地図情報に出てるんだけど」

「え、何々、隠し部屋発見?」


 パメラ姉様、喜びすぎでしょ。


「だって、魔物が全然出てこないんじゃ、それぐらいないと面白くないじゃない?」

「そんなダンジョンに入りたがったのは、誰ですかねぇ?」

「ミーシャの意地悪!」


 隠し部屋のあるところに着いてみたけれど、ただの岩肌でしかない。隠しスイッチみたいなのがあるのかな、とか期待したけれど、そういうのも見当たらない。


「本当にここ?」


 岩肌をなでているニコラス兄様の言葉に、土の精霊王様が、フンッ、と鼻で笑う。


『ほら』


 精霊王様の一声で、目の前の岩肌が崩れ落ち、目の前に四畳半くらいのスペースが現れた。


「何にもないね」


 宝箱的なものか、魔物でもいるのかと思ったのに、何もない空間だった。


『そうでもないわよ?』


 ふよふよと精霊王様が壁際に行くと、じわじわと壁面が青白く輝きだした。


「え、何、これ?」

『ここは壁面全部が、サファイアの原石でしょうね』

「へ?」

『どうする? 美佐江が欲しければ、全部取り出すけれど』

「え、欲しいけど、え? え? この壁全部?」


 精霊王様が近づいた面だけでなく、この周りが!?


「今まで歩いたダンジョンの中の壁には、そういうのなかったの?」

『そうねぇ。鉄や銅などの金属はちらほらあったけれど、大きなものはなかったわ。もしかしたら、隠し部屋になっているところに、宝石だとか珍しい金属があるのかしらね』

「それって、誰も見つけられてない可能性の方が高いんじゃない」

『ホホホ、そうかもね』

「ミーシャ! せっかくなのだから、頂いちゃいましょ!」

「ほか、母さんや義姉さんへプレゼントにいいじゃないか」


 でも、これ全部? ぐるりと見回す。


「どうせ、しばらくしたら壁も戻るだろう。それがダンジョンの特性なのだし」

「……そうね。エノクーラ鉱石ってわけじゃないんだし」


 私は遠慮するのを忘れることにした。

 アイテムボックス持っててよかったわ、とつくづく実感したのであった。

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