第38話

 《300年くらい前、エノクーラ王国の王子とシャイアール王国の王女が恋に落ちたのだそうだ。しかし、王女の方にはすでに遠縁との婚約が決まっており、その遠縁の家に無理やりに連れていかれそうになったのを、エノクーラの王子が助け出したのだとか。

 その逃亡中に二人の間に子供が生まれた。それが『精霊の愛し子』だった。

 王子は必死に妻と子を守ろうとしたが、結局は殺されてしまい、エルフの王女は子供を守るために、かつてエルフの古い神を祀った神殿跡へと逃げ込んだ。

 しかし、結局、王女は子供を守るために敵もろともに斃れてしまった》


 風の精霊王様が淡々と語った。


「その子供ってどうなったの」

『彼女の命がけの祈りの力で、その子供はどこかに隠されたよ』

「え、どこかってどこよ」

『さぁ』


 凄い気になるけど、精霊王様は言う気はないって感じだろうか。

 でも、隠された、ということは生きていた、ということだろう。そう願いたい。


「エルフたちはその子供が『精霊の愛し子』ってわかってて追いかけてたの?」

『いや? たんに、人間との混血を抹殺したかっただけだろう』

「もし、『精霊の愛し子』だってわかってたら?」

『可能性としては、死ぬまで離宮にでも押し込めていたかもね』


 なんだ、それは!

 ストーカーエルフでも思ったけれど、エルフの王族って最低だな。


「まぁ、でも、エルフが全部、そんな悪い奴ばっかりじゃないと思うよ?」

「……ニコラス兄様」

「冒険者やってるエルフの知り合いがいるけど、そいつはそんな感じじゃなかったし」

「そうね。キースはいいやつだったわ」


 パメラ姉様が言うくらいだ。かなりいいエルフなのだろう。

 ダンジョン攻略中に何度か一緒に行動をともにしていたことがあるらしい。キースというエルフはBランクの冒険者になりたてだったそうだ。まだ若いエルフということなのだろうか?


「キースは今頃、どこにいるのかしらね」

「パメラはキースに懐きまくってたからな」


 うん? 懐く?


「や、やーねっ。そんなことないわよ」


 パメラ姉様は否定しながらも、照れている。これはもしやっ!


「密かに、キースのことを猛獣使いって呼んでたんだ」


 ニコラス兄様がこっそり耳打ちしてきて、ニヤリとする。


「ニーコラース、何か言ったぁ!?」

「あはははは」


 部屋の中で追いかけっこが始まる。もう、二人とも22歳にもなってるのに、子供みたいだ。

 私もクスクスと笑いながら見ていると、風の精霊王様が小さな声で言った。


『今度、エルフのことを鑑定してみるといい』

「鑑定?」

『ああ。もしそやつが王族に連なる者であれば精霊の加護はないはずだ』

「えっ」

『愛し子を殺そうとしたのだぞ。それ相応の罰を受けるのは当然だ』

「じゃあ、王族ではないエルフには加護があるんだ」

『そうだな。悪行をしていない限り、だが』

「でも、鑑定できないこともあるわよね? 魔道具で防いでることもあるし」

『……無自覚か』

「うん?」

『美佐江の鑑定はレベルアップしているぞ。その辺の魔道具くらいでは、防げまい』


 ……は?

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