第39話
鑑定は、いつも調剤の材料とか、ダンジョンで手に入れたモノだとか、それこそ食品の買い物の時に、サラッとするくらいで、人物の鑑定はできるだけしないようにしていた。それこそ、プライバシーの侵害だし? 人によっては、鑑定を防ぐ魔道具なんてのを持っている人もいて、あんまり意味がないかな? と思っていた。
イザーク兄様が、試しに鑑定してみたらと勧めるので、その流れで鑑定してしまった。
「やだ、本当だ」
『イザーク・リンドベル/ 26歳
種族/人間
性別/男性
職業 :冒険者(Dランク)・元レヴィエスタ王国近衛騎士団副団長
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聖女ミーシャを溺愛中』
鑑定防止の魔道具を付けたままのイザーク兄様を鑑定できてしまった。それも余計な一言付き。
『だろう?』
「……うん、まぁ、要注意人物の時にやってみるよ」
『美佐江の鑑定は、相手も感知できないだろうから、気になったら躊躇するでないぞ?』
精霊王様の言葉で、私の『鑑定』は普通とは違うのを理解した。
……まぁ、いいか。
まずはエノクーラ王国で、ゴンジュ先輩に会って、きちんと必要な材料を聞いてくること。その後、素材を集めながらあちこち旅をするのだ!
「そのためにも、もう一度、シャイアール王国に行かないとだねぇ」
ニコラス兄様の言葉に、因縁のストーカーエルフを思い出す。またカイドンに寄ったら、次こそはアレと関わってきそうな予感がする。
できれば、それは避けたいところ。
しかし、エノクーラ王国はシャイアール王国の北。まだ私は一度も行ったことがないから、私の転移では直接は行けないんだよな。
『美佐江が望むなら、エノクーラまで飛ばそうか?』
風の精霊王様が簡単なことのように言う。実際、彼にしたら容易いことなんだろうけど。
「せっかくだったら、旅を楽しみたいわ」
『そう言うと思った』
さすが、わかってらっしゃる。
今回は、馬ごと転移することにした。リンドベル家の騎馬は、肝っ玉が太いのか、一緒に転移しても動揺しないから、楽なのだ。
この前同様、カイドンの街の近くの街道沿いに転移した。今日は天気がいいみたい。
双子はそれぞれの馬に、私は毎度お馴染み、イザーク兄様の前に乗る。こちらに来てからしばらく経つけれど、いまだに一人で馬には乗れない。練習もしてないからだけど、イザーク兄様が一緒に乗ってくれるしな、と思うと、まぁ、いいか、となってしまう。
「前から馬車が来ている。端に避けるよ」
先行していたニコラス兄様の声に、私たちは道を開ける。
私たちの横を通り過ぎていく馬車は、カイドンの街の方へとかなりのスピードで走り抜けていった。
ただ、ちょっと気になったのは。
「……黒い靄?」
馬車の隙間から、漏れ出ているのが見えた気がした。
* * * * *
ハロイ教教祖、ナリアード・ドロルドは苛立っていた。
ハロイ教のための教会設立のために、わざわざシャイアール王国の王都にまで行ったというのに、国王に会うことも叶わず、ましてや貴族たちには相手にもされなかった。
すでに王都を出てから数日経っているにも関わらず、彼の怒りは治まらない。
「くそっ、エルフのくせに、我々を馬鹿にするとは」
ドロルドの手が黒い魔石を握りしめる。その度に、ドロルドの黒い怒りが吸い込まれていくが、彼の怨念のような怒りは溢れるばかり。
「こ、この地は精霊を祀るのが一般的ですから……」
同乗している従者が、なんとか宥めようとした言葉も、ドロルドを煽るだけ。
「精霊がなんだっ。所詮、エルフも亜人共と同じということだろうっ!」
ガツンッ、とドアを殴りつける。
「はぁ……せめて、この国の入口であるカイドンに教会が置ければいいんだがな」
苦々しく言うドロルドを乗せた馬車が、ミーシャたちとすれ違うのは、そのすぐ後だった。
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