第2話

 薬屋は週に3日営業している。うち以外にも、薬屋は何店舗かあるので、それで十分だからだ。

 残りの4日のうち、半分は森の家、もう半分はリンドベル辺境伯家で過ごす。これがほぼルーティンになっている。

 今日はそろそろ店じまいにして、リンドベル辺境伯家に向かう予定。

 売り上げは、さほど多くはない。実際、趣味のようなものだから。そうでなくても……臨時収入が多いせいもある。


「あれ、まだやってるのかい?」


 そう言って店の入口から顔をのぞかせたのは、イザーク兄様、26才、独身。

 せっかくの近衛騎士を辞めて、冒険者になってからは、ここの領都を中心に冒険者稼業を続けている。冒険者になって約1年ちょっとなのに、すでにDランクになっている(最低がGランク。私はまだEランクのまま)。


「もう終わるところ」

「そうか、じゃ、ここで待ってるよ」


 そう言って、店の前の看板を仕舞いつつ、ドアと窓のカーテンを閉めてくれた。

 相変わらず、私にべったりなイザーク兄様。王都からはいまだに王太子自らが、近衛騎士団に戻らないかという話が来ているそうだ。それに貴族のご令嬢との婚約の話も。こちらは、ひっきりなしにくるらしい。

 それらの話を蹴ってまで、リンドベル辺境伯領にいるのは、私がいるから。

 自惚れているようで、なんともこそばゆいが、私大好きなようで、これはもう、放っておくしかない、というのがリンドベル家の総意だそうだ。


「そういえば、今度お祭りがあるんだって」

「祭り? ……ああ、そういえば、もうそんな時期なのか」

「何のお祭りなの?」


 なんでも無事に春になったことをアルム様に感謝する祭りなんだとか。

 えー。アルム様に、なぜ感謝!? むしろ、精霊の方がしっくりくるのに……なんてことを言ったら『ムキーッ!』とか言いそう。


「イザーク兄様は、見たことあるの?」

「基本的に、この祭りは、商業ギルドが主催なんで、領主は関わることはないんだ。でも、まだ子供のころに、父上たちと一緒にお忍びで行ったことがあったな」

「あー、なんかエドワルドお父様なら、やりそうだね」


 でも、あの家族の顔面偏差値の高さで、すぐに領主一家ってバレてそうな気がするんだけど。


「さっき、商店会のまとめ役さんからね、何かやるなら言うように言われてさ」

「ほお。やるなら手伝うぞ?」

「いやいや、そんな面倒なことしないから」


 だいたい、ここは薬屋。そこで何を売るというのか。

 

「あ、飴玉でも売ってもいいかな?」


 さっきポンドさんにあげた飴は、ハッカ味ののど飴だったりする。他にも、柑橘系の味や、ベリー系の味ののど飴なんていうのも売ってはいる。どちらかといえば、子供向けなんだけれど。まぁ、それだけじゃ、たいした売りにはならないか。


「さて、帰ろうかな」


 今日の売り上げをまとめると、アイテムボックスにしまう。

 ドアの鍵は、もう、かけた。私がこの店から出ると、自動で結界をはる魔道具があるので、泥棒対策もバッチリだ。

 イザーク兄様がにっこりと手を差し出した。

 これも、すでに恒例なパターン。慣れてしまって、ため息もでない。

 私はイザーク兄様と手をつなぐと……一瞬で、リンドベル家の私の部屋へと飛んだ。

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