おばちゃん、領都でお祭りに参加する

第1話

 オムダル王国から戻って、そろそろ1年近くなるだろうか。

 私はのんびり、リンドベル辺境伯領の領都の薬屋を営んでいる。一応、店番にいるのは、普段の私、ミーシャ。責任者を求められた時には、美佐江の姿で出るようにしている。ほとんど店には出てこないけど、

 以前、アルム様に着せ替え人形にされた時に、街にいる普通の格好もさせてもらったので、その格好になるようにしたのだ。といっても、ブラウスに長めのスカートに、エプロンを付けているだけだけど。いつまでも、あのおばあさんの格好というわけにもいかないでしょ。

 お陰様で、近所の人達からは、『ミーシャの伯母さん』と思われているらしい。本人なんだけど。


「ミーシャちゃん、おばさんいるかい?」


 近所の商店会を取りまとめているポンドさんがやってきた。

 ポンドさんは50代くらい。すでに10代半ばのお孫さんまでいる、ぽっちゃりなおじさんだ。


「いますけど、何ですか?(私だけど)」

「いやね、今年も、街のお祭りの季節なんで、お前さんたちの店はどうするかと思ってね」

「お祭り?」

「あーっと、そうか、ミーシャちゃんたちは、去年のその時期は、おばあちゃんと一緒に帰省してたんだっけか? そういやぁ、この店を始めたのも、祭りの後だったよなぁ」


 なんでも年に一度、この時期にやるお祭りなんだとか。

 去年の今頃は、エドワルドお父様たちと共に、オムダル王国で面倒ごとに巻き込まれていたけれど、ヘリオルド兄様たちがいたから、特に問題なく済んだのかもしれない。


「一応、うちの商店会じゃ、ノックスのところと、ミディーのところが出店を出すっていうんだが、ミーシャちゃんは、おばさんから何か聞いてるかい?」


 ノックスさんもミディ―さんも、食事を出すところの店主だ。ノックスさんは居酒屋、ミディ―さんは小さな定食屋だった気がする。

 この領都には、中央を走る大通りを境に、東西に街が別れている。うちの店があるのは東側の比較的小さい店が集まっている小さい通りだ。この通りの商店をまとめているのが、ポンドさんというわけ。


「特に聞いてないけど(考えてもいなかったしね)」

「そっかぁ、じゃあ、おばさんに言っといてくれるかい。もし、何かやるんだったら、一応、商業ギルドに申請せにゃならんからよ」

「はーい。あ、ポンドさん、よかったらこれ、あげる」


 私はカウンターに並んでいるガラスの瓶から、飴を一つ取り出した。私特製のハッカ風味ののど飴だ。


「おや、いいのかい? おばさんに怒られないかい?」

「うん、いいのいいの」

「ありがとよ~。じゃあ、おばさんによろしくなぁ」

「はーい」


 ポンドさんが店から出て行ってしばし。


「お祭りねぇ。うちみたいな薬屋じゃ、何もできやしないと思うんだけど」


 ぽつりと呟きながらも、何かあるかしら? とカウンターに肘をつきながら、考え込んだ。

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