第36話

 双子が叫び声を上げるような相手。

 それはどうも、イザーク兄様の学生時代の先輩で、レヴィエスタ王国の魔術師団にいた人らしい。いた、というのは、今は魔術師団を辞めてしまったそうなのだ。


「ゴンジュ先輩か……」

「あの人は、ちょっと……ヤバいわ」


 遠い目になる双子。どうも、以前、イザーク兄様経由で素材収集の依頼を受けたことがあるらしい。


「今も、レヴィエスタの王都にいるの?」

「いや、わからん。連絡をとってみるか」

「そうだね……必要な素材だとか、作るためにいくらかかるか、もちゃんと聞いておいて」


 あんまり高くないといいなぁ……。

 そんな会話をしている私たちを、おじいさんたちは、目を白黒させながら聞いていたのだが。


「えっ」


 急に背中がぞくぞくっとした。

 何? とも思って周囲を見るけれど、この部屋には私たちだけしかいない。


「どうした?」


 隣に座っていたイザーク兄様が、すぐに気付く。


「なんか、急に寒気が」

「雨の中、歩いたからか」

「いや、なんか、そういうのとは違う気が」

『ああ。面倒なのが気が付いたようだぞ』


 いきなり、今日の護衛担当、火の精霊王様が現れた。


「ひっ!?」

「なんじゃっ!」


 おじいさんたちが抱き合ってる。

 仲のいいことで。


 ……じゃなくて。


「火の精霊王様、面倒なのってまさか」


 この町で面倒と言ったら、ストーカーエルフしかいない!


『ああ、そのまさかじゃ……まったく、おしゃべりな精霊がいたもんじゃ』


 精霊王様が不機嫌そうに、ピンッと指を鳴らした。


「……何をしたの」

『おしゃべりな奴を消したまで……アレに案内をさせてたようだから、今頃、消えて困ってるだろうよ』

「精霊王様……」

『気にすることはない。また違うところで、一から始まるだけのこと。人と喋られるくらいになるまで、どれくらいかかるかはわからんがな』


 うわー。悪そうな顔してる。ミニチュアのくせに。


「あ、あの……お嬢さん、その、肩にいらっしゃるのはもしや」

「……火の精霊王様。これも内緒に、ね」

「は、はい」

『うん? なんと。あやつめ……この店の通りまで来ているぞ』

「げっ」


 最悪だ。

 私はイザーク兄様と双子に目を向け、頷く。


「おじいさん、おばあさん、これから見ることも内緒ね」

「何が起こるのかわからんが、わかった」

「お嬢さんには、この人が世話になったからね」

「もし、何か困ったら、これを使って」


 パメラ姉様が、リンドベル辺境伯の印のついた白い封筒を渡した。


「こいつは?」

「うちの執事宛に連絡がつく緊急用の魔道具。封筒を破くと我が家の執事に通知されるの。そこから私たちにも連絡が来るようにしておくわ」


 何、そんな便利なものなんかあったの!?

 なんか、昔に渡されたのがあったのを思い出したらしい。

 

「こ、こんな高そうな魔道具なんて、もらえねぇよ」

「いいのよ。あの絵を見たら、もっと色々描いて欲しいモノとかありそうだし」

「そうだな。今度、一緒にダンジョンに行こう。もっと色んな魔物の情報もあったほうがいいだろう?」

「えっ」

「パメラ姉様とニコラス兄様は、Aランクの冒険者よ……でも、二人とも、おじいさんに無理させるのは駄目よ」

「わかってるって」

『おしゃべりはそこまでにしろ……店の前まで来てるぞ』


 早いって。

 なに、ホラーか何か?


「おじいさんたち、また来るわね」

「え」


 私たちは、そのままリンドベルの屋敷にある私の部屋へと飛んだ。

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